パーソナリティ 「はっはっは。今日も我の時間がやってきたぞ、雑種ども。 我の声が聞けるのだ、音量を上げておけよ?」 ここはとあるスタジオの一室だ。 そこに尊大に足を組み、マイクに向かってご機嫌に喋る一人の男がいる。 語るまでもない。金ぴかこと、ギルガメッシュ・大人Ver.である。 パーソナリティ/talk away
その金ぴかがラジオのパーソナリティをやってやがる。口ぶりからして初めてってわけじゃなさそうだな。 パーソナリティってのはあれだ、ラジオの司会みたいなもんって覚えときゃ問題ねぇ。 なんでも生放送とかいうやつで、今のアイツの喋りがリアルタイムで各地に届けられてるそうだ。 あん? 俺が誰かって? ランサーだよ。 なんだかワケわかんねぇ内にあの野郎に連れてこられて、面と向かって座らせられてる。 ま、ガラス越しにだけどな。 んで? なんでアイツがパーソナリティとか言うのをやってるかって? そんなの俺が聞きてぇ。 アイツが何考えてるか、なんて俺にわかるわけないだろ? まあ、推測くらいならできるけどな。 そうだな……どっかでラジオを聴いて、持ち前の金にあかせてスタジオごと買い取ったってとこか? 我もあれをやるぞ、とか何とか抜かしてやっちまったんじゃねぇかなぁ。あいも変わらず、やること為すこと理解不能なヤツだ。 しかも自分で稼いだ金じゃねぇってのはムカつく。 なんだ? 技能・黄金律ってのは。こっちはせっせとバイトで金貯めてるってのによ。 いや、オレは好きでやってるんだけどな。 ま、んなこたぁ置いといてだ。 オレとしてもせっかくこうして現代に召喚されたんだし、昔はなかった物に触れて見たいと思うのは当然だろ? そういう意味じゃアイツはうってつけだな。 いけすかねぇヤツだが、そこにいるだけで金も問題も寄ってくるなんざ稀有の才能だとオレは思うね。 四六時中一緒にいるのは御免被るが。 ま、それはともかく最近雨続きで釣りもできなかったし。 ようはオレもアイツも暇だったってワケ。 と、なにやら白い紙を取り出したようだ。 「今日は何通かの便りを貰っている。 うむ。我に相談するなど雑種どものくせに中々分かっているではないか。 下々たる民草の愚痴を聞くのも王たる我の務め。特別に我自ら読み上げてやろう」 はっはっは、と何がそんなに嬉しいのか、終始上機嫌で喋り続ける金の王。 ……それにしてもあれだね。 こういう風景ははじめて見るが、一人で喋り続けてる野郎を見てるってのはどうも……。 「では最初の便りだ。ペンネーム:正義の味方から。 ……何々? 『最近、家に女性ばかりが増えて困っています。 男が俺一人なのに女性は片手では足りないくらいの人が毎日出入りしています。 いや、この状況が嫌というワケではないんですが俺の権限というかなんというか……。 家主である筈なのに、気がつけば最下層にいるような気分なんです。 そこで王たるギルガメッシュさんに質問です。 男として、家主としてなんとかこの状況を打開する方法はないでしょうか』 ……ふむ。なるほどな」 ギルガメッシュが最初の手紙を読み上げる。 内容から察するになんだか知り合いの坊主のような気がするんだが……。 いやいや、あの坊主があんなもんを送るとは思えねぇしな……別人だろ。 「要するに男であり、家主である正義の味方の家に無数の女が出入りしていると。そして良いように丸め込まれて居つかれているというわけだな。 ……なんとも情けない話であるな。男子たるものが女に良いように使われるなど。貴様も男なら女など組み敷いてみよ。手玉に取るくらいの器量を見せよ。度胸がない? 後が怖い? 時代が許さない? は、そんなもの何の関係がある。 自分の環境は自分で変えようとしなければ決して動くことはないのだ。ならば動け。考える前に行動してみせよ」 意外だ。すごく意外だ。ヤツがまともなことを言ってやがる。 てっきり『ふん、そんなもの自分で考えろ雑種が』とか言うと思ってたのに。 腐っても王ってか? まあ内容に関してはオレやアイツの時代なら奪い奪われる時代だったからな。 それでまかり通っただろうが……この時代じゃそれも無理ってもんだろ。 「よし。では次に行くぞ。ペンネーム:赤いあくまからだ。 『初めまして。私は昔からここ一番でうっかりをしてしまいます。 先日もわたしのうっかりで皆を巻き込む大騒動を起こしてしまい……。 そこでうっかりとは縁の無さそうなギルガメッシュさんに質問です。 この遺伝とも呪いともいえるうっかり癖を治す良い方法はないでしょうか』 ……なるほど」 …………嬢ちゃんじゃねぇのか? 以前坊主に嬢ちゃんはよくポカするって聞いた事がある。 だが待て。あの気のつえぇ嬢ちゃんがコイツに相談なんかするか? いや、それ以前に質問の仕方がおかしい。やっぱこれも別人か。 「我が王たる故にうっかりがない、と。 うむ、中々良い目を、いや耳をしているようだな。 しかしだな、雑種。我は良くうっかりをするのだ。 王故にうっかりがないのではなく、王故にうっかりがあるのだ」 オマエ、自覚があったのか!! 「どこぞの雑種にも聞かせてやった言葉を貴様にも聞かせてやろう。 う、うぅん、ゴホン、ん、んんん、『───慢心せずして何が王か───』 ふふん、良い言葉であろう? 後世に残る名言故に心のメモ帳にしかとチェックを入れておくがいいぞ」 本気で言ってんのかコイツ。言ってんだろうなぁ。 その執着でセイバーにぶった斬られ、その慢心で坊主に腕を斬られ、その油断で間桐の嬢ちゃんの影に飲まれたってのに。 さすが、世界最古の慢心王様の言葉は違うぜ。 ……あれ、なんでオレがそんなこと知ってんだ? ……まあ、いいや。 「では次の便りだ」 しかも質問に答えないのかよ。 「ペンネーム:くすくすと笑ってごーごーからだ。 うむ? 何かこのペンネームに嫌な思い出があるような気がするのだが……気のせいか。 『初めまして、いつも楽しく聴かせて貰っています。 私にはずっと前から好きな人いました。 でも最近その人を取り巻く状況が一変してしまい、周りに女性ばかりが溢れています。 どうやらそのうちの何人かは私の想い人に気があるようで……。 しかもその中には私の実の姉までいるんです。 何度かアプローチをしたことはあるんですが、効果もありませんでした。 私は内気な性格なので、面と向かって告白なんてことも出来そうにありません。 そこで経験豊富そうなギルガメッシュさんに質問です。 好きな人に振り向いてもらう良い方法はないでしょうか』 ……ふむふむ」 間桐の嬢ちゃんだろ!? それしかありえねぇ。 商店街でバイト中に何度か二人で歩いてるのを見た事があるが……。 ありゃ傍目に見ても気があるのはバレバレだぜ。 気づいてねぇのは当の本人、坊主だけだな。 そんなんだから嬢ちゃんらに朴念仁たらなんたら言われるんだぜ、坊主。 「色恋沙汰の相談だな。 我も世界の全てを手にする王ではあるが、未だ一つだけ手に入らぬモノがある。 それも強いていうのなら色恋沙汰であるな。 そう、我が唯一手にしていないモノ、それはある一人の女なのだ」 セイバーか。 コイツも懲りねぇなぁ。傍目から見てもセイバーの眼中にオマエは入ってないぞ? 最近アイツの目に入ってるのは坊主とその食事くらいのもんだ。 「あの騎士王め。 我がわざわざ出向いて求婚してやっているというのに、何事もなかったようにおかわりを要求しているのだぞ? 最初はまだ反応があったのだ。否、という返答がな。 だが次第にまたですか、という風に変わっていき、最近では完全に無視&約束された勝利の剣だ」 日常の風景ってヤツだな。 毎度毎度屋敷をぶっ壊される坊主の身にもなってやれよな、コイツもセイバーも。 「我の調査の結果、その騎士王はとりわけ食事が好きらしくてな。 特に最近では高級食材に興味があったようだ。 そこで我の財力を用い、世界のあらゆる高級食材から珍味までくれてやったというのに、感謝するのは調理をした雑種だけという偏愛ぶり。 これはあれだな、最近よく聞くツンデレとかいうやつだ。感謝したいのだが変に我を意識してしまい出来ないのだろう。 はっはっは、中々に可愛げがあるではないか、騎士王。それでこそ我が目をつけた女であるぞ」 スゲェ。何がスゲェってもう既に相談じゃなくなってる事だ。そして何よりコイツのポジティブ思考が半端ないって事だ。 ここまでくるとある種の尊敬の念さえ覚えちまうな。 それにしても報われねぇなぁ、この男も。あれか、これが恋は盲目ってヤツなのか? 「……ふむ? そうか、次で今日の便りは最後のようだ。 最後まで我の声を堪能するがよいぞ? では行こう。ペンネーム:腹ペコ王からだ。 ほう? 雑種の分際で王を冠するなどふてぶてしいにも程があるが……まあ良かろう」 どうみてもセイバーじゃねぇか! この流れでそれすら想像できねぇコイツは脳が膿んでんのか? 「どれどれ。 『とても困っていることがあります。 ある男に執拗に求婚を受け、ストーカー紛いのことまでされているのです。 最近では大量の食材を送られたり意味不明な行動までしてくるようになっています。 家主である私のマスターはそれをとても喜んでいたのですが、あの男から施しを受けるなど私のプライドが許せません。……料理は大変美味しく頂きましたが。 そこでギルガメッシュさんに質問です。 このような男をどう思いますか? また対処法などあれば教えて下さい』 ……世の中には変な男もいるものだな」 オマエだよ。 「どう思うか、か。 ふむ、女の尻を追いかける男など屑も当然よな」 オマエが言うか! 「そうだな。対処法としてはきっぱりと言ってやったらどうだ。 つきまとうな、とな」 言われてもつきまとってるオマエが言うか!? 「それでも駄目なら仕方あるまい。 灸を据えてやれば良かろう。 それでもわからぬ屑は公僕にでも引き渡せば良い」 それでもわかってねぇオマエが言うかァァ!! 「………おい、さっきから五月蝿いぞ、雑兵。 せっかく我の収録風景を見せてやろうと…………ん?」 俺へと向けていた視線を僅かにずらし、背後を見る。 ………あん? 後ろになんかいんのか? 「はろー、金ぴか。誰が赤いあくまでうっかりですって?」 「金ぴかさん? あんまりオイタが過ぎるとまた飲んじゃいますよ? クスクス」 「英雄王! 私は腹ペコなどではありません!!」 嬢ちゃんは腕を組みあのバカを見下ろし、間桐の嬢ちゃんはクスクスと怖ぇ笑みを浮かべ、セイバーはがぁーっと吼えている。 その姿は三者三様だが共通点が一つ。皆怒ってるってことだな。 「ランサー? 貴方は何故ここにいるのかしら?」 赤い嬢ちゃんが聞いてくる。 怖いので、そこのバカに無理矢理連れてこられた旨を説明する。 「そう。じゃあいいわ。まあ貴方はあんなことをするとは思えないし」 どうやら怒りの矛先からオレは外れたようだ。 サーヴァントとはいえ今の嬢ちゃん達からは逆らいがたいオーラがでてるしなぁ。 ぶっちゃけ怖い。静観を決め込むとするか。 「何だ、貴様ら。今は我の収録中だぞ、出て行け。セイバー以外」 邪魔されたことが癇に障ったのか、嬢ちゃん達を睨みつける油断王。 セイバーにだけは熱い眼差しを向けてるように見えるのは気のせいだろう。気のせいにさせてくれ。 「ちょっとアンタ。変なペンネームで私たちの私生活とか晒さないでくれる? それとも何? アンタ、私たちの周りを調べてあげて自分で投稿してるの?」 やっぱあれは嬢ちゃん達が自分で書いたもんじゃねぇのか。 「何を言っているのかさっぱりわからんが。 とりあえずこの便りは視聴者から届いたちゃんとした……………」 ペンネームと内容の書かれている手紙の裏面ではなく。 表、切手とか宛名が書いてあるほうを見て余裕王が動きを止める。 ……なんだ? 「? ちょっと見せなさい」 「ま、待て!!」 ずかずかと中へと入っていき、ギルガメッシュから手紙を取り上げる嬢ちゃん。 そこに書かれているだろう、送り主の名を見て口元を吊り上げる。 「…………ふ〜ん。 言峰綺礼、ね。あの外道マーボーとアンタ、グルだったってわけね」 つか、三通いや四通か? 全部アイツが出してたのかよ。 「!? 待て! 意味がわからぬ! 何故我とヤツがグルなのだ! 確かに送り主を確認しなかったのは我の落ち度だが、送ってきたコトミネが元凶だぞ!?」 「でも読み上げたのはアンタでしょ? ペンネームとはいえ、もし私たちの知り合いが聴いてて連想されたらどうするの?」 「そ、そんなこと、我が知るものか!」 「私も知らないわよ。だ・か・ら、アンタにお仕置きをさせてもらうわ」 「意味がわからぬ! 止めよ! 雑種ども!!」 「行くわよ、セイバー、桜」 「はい、凛」 「はい、姉さん」 「小娘どもめが、──ふん、仕方あるまい。 死んでから喚くことはできんぞ? 開け! ゲート・オブ・バビ……」 ゴソゴソとポケットを漁るギルガメッシュ。 ああ、そういえばあの宝具、鍵剣が本体だったな。 「!? ない! ないぞ!? 我の財宝がない!!!」 あー……そういえば今朝あの外道神父がアイツの服漁ってたような。 なるほど。全部言峰の仕込ってワケか。 どっかに監視カメラでもあって今頃一人でニヤニヤしてんじゃねぇのか? 「まさか失くしたんですか? クスクス、さすが金ぴかさんですね。 うっかりもそこまで行くとびっくりですよー。 くうくうお腹が空きました」 背後から黒い影のようなモノを具現化させ、間桐の嬢ちゃんが歩み寄る。 怖ぇ。 「ま、待て! 話せばわかろう! 嫌だぞ! その泥は嫌だぞ!!」 ギャーギャー喚くも無視され、黒い泥に飲み込まれていくギルガメッシュ。 ────さて、そろそろオレは帰るかな。 この様子じゃ教会にも帰れねぇだろうし、帰りたくもねぇなぁ。 嬢ちゃん達に軽く挨拶をしスタジオの外に出る。 お、晴れてんじゃねぇか。久々に港でも行ってみるか。 うーんと一つ伸びをし、港の方へと足を向ける。 ポケットより煙草とライターを取り出し火をつける。 空は快晴、雲は多少あるが、雨は降らねぇだろう。 ……ま、日が落ちる頃には迎えに来てやるとするか。 後書きと解説 なんだこれ。意味ワカンネ。 説明するとブラジル対フランス戦を見てたら 「ギルがラジオのパーソナリティしたら面白いんじゃね?」 と天啓が閃いたんですよ。 いや、自分で言ってて意味わかりませんが、これが事実なんだから仕方がない。 で、書いてみると……orz そりゃそうだよなー。ラジオなんて全然聴かないし俄か知識で書いたものですから。 まぁギャグを目指した習作ってことで一つ……。 不思議時空での話しですのでなんで言峰とかいんの? という突っ込みはノーサンキューです。 ついでに隣の長編とは何の関係もないのであしからず。 back |