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平穏への侵入者









 ────とある良く晴れた休日の昼下がり。

 居間にてセイバー、凛、桜と共にお茶とお茶請けに舌鼓を打ちながら談笑を続ける、魔術師の駆け込み寺こと、衛宮邸の家主、衛宮士郎。
 彼は知るまい。
 今まさに、すぐそこに、この平穏を打ち崩す使者が近づいて来ていることを。




平穏への侵入者/an escape





 ──ピンポーン

 どの家にも設置されているであろう、来訪者を告げる装置。
 俗に言うチャイムがこの古めかしい武家屋敷に、その音を鳴り響かせる。

「ん、誰か来たみたいだ。ちょっと行って来る」

 女性陣との団欒を一時中断し、玄関へと足を向ける。
 士郎は思う。誰が来たのだろう、と。

 ──ピンポーンピンポーン

 ライダーは自室で読書中だし、藤ねぇやイリヤはチャイムなんて押さない。

 ──ピンポーンピンポピンポーン

 一成か慎二か、はたまた美綴とか。果てはカレンやバゼットか。
 まさかアーチャーやランサーなんてことはないだろう。

 ──ピンポピンポンピンポピンポピンポーン

 他には………、新聞の勧誘だったり、訪問販売だったり。

 ──ピピピピピピピピピピピピピピピピピピンポーン

 ま、出てみればわかるか。──って。

「うるせーっ!」

 一回押せばわかるっつーの!
 誰だっ、こんな子供じみた真似するヤツはっ!!

「──遅い。我を待たせるとは良い度胸だな、雑種」

「────────」

 ガラガラと引戸を開けたそこに立つ人物。
 それは何処から如何見ても金ピカ、もといギルガメッシュである。

「……なんで大人になってんだ?」

 何故家に来るのか、何の用なのか。
 士郎の頭をよぎったのは、そんな一番始めに思いつきそうな疑問ではなく。
 あの人の良い子ギルではなく、なぜ慢心王の姿をとっているのか、ということだった。

「なんだ、雑種。
 我が大人だと貴様に何か不都合があるというのか」

 ある。大いにある。
 放っておけば何ら問題のない危険物であるが、関わってくるとなると話は別だ。
 むしろ本人が自分は問題のある人物だ、と認識していない事が既に世界にとっての不都合である。

「まあ、良い。上がらせて貰うぞ」

「な────にィ!?」

 言ってズカズカと居間の方へと向かっていくギルガメッシュ。
 それはマズイ。大いにマズイ。
 居間にはセイバーがいる。
 我と結婚しろエクスカリバーはもうこりごりだっ!

 と、瞬時に思考し、駆け出すも時既に遅く。
 迷いなく歩むギルガメッシュは居間の襖に手をかけていた。

「まっ─────!」

 待て、と発音する間すらなく。

「うむ。久しいな、セイバー」

「ぃるはめっむ!?(ギルガメッシュ!?)」

 ………セイバー。ものを口に含みながら喋るのはダメだぞ。





/2


 どうやらギルガメッシュは求婚をしに来たわけではないようだ。
 おかげで、出会う→求婚→エクスカリバー→屋敷崩壊の図式は免れた。
 それに士郎は心底安堵────

 ────したのも、束の間。

「我は今日からこの家に住むことにした。
 我の住居としては些か手狭ではあるが、仕方あるまい」

「────な」

「────ん」

「────だってー!?」

 絶叫する凛、桜、士郎。
 セイバーと自室より来てもらったライダーは一応の沈黙を保っている。

「? 何をそんなに驚く事がある。
 我が住んでやると言っているのだぞ? ここは歓喜する所であろうが」

 真に理解できない、と首を傾げるギルガメッシュ。

「良い度胸ですね、英雄王。
 私への求婚だけでは飽き足らず、士郎達にまで迷惑をかけると。
 それほど我が聖剣の錆となりたいと言うのですか」

 ゆらりと立ち上がるセイバー。
 その手に携えし不可視の剣が風を放出し、黄金に煌めくその刀身を顕現させていく。

「まっ、待てセイバー! これには海より深い理由があるのだ!」

「問答無用! どうせ貴方の理由など、ロクでもないものでしかありません!」

 有無を言わせずエクスカリバーを振り上げる剣の英霊。
 ギャーとかやーめーてーとかいう悲鳴が響いているが、セイバーの耳には届かない。

「待ってくれ、セイバー! ギルガメッシュの話を聞こう!」

 その士郎の言葉に動きを止めるセイバー。

「……………シロウがそう言うのでしたら」

 さすがの彼女も彼の制止とあっては、振り下ろすことはできなかった。
 しぶしぶながら畳に座し、残っていたドラ焼きを齧る。

「ふ、ふう。助かったぞ、雑種。
 我の命を救うとは褒めてつかわすぞ」

 もちろん士郎はギルガメッシュの身を案じたわけではない。
 彼が案じたのは、振り下ろされる極光により破壊される我が家である。








「で、その理由ってのを説明してくれるか」

 士郎とて鬼ではない。
 そこにとても看破できないような、本人の言うような深い理由があれば少しの間くらいなら住まわせてもいいかな、と思っていた。
 なによりこの家には男が士郎一人しかいない。
 故に女性陣の矛先が士郎へと向くのは必然。
 だがギルガメッシュがいれば多少なりとも現状が改善されるのではないか? と即物的な事を思っていたのだ。

「うむ。我がこの家に住んでやると言った理由はだな───」

 理由は?

「───教会に戻りたくないのだ」

「─────は?」

「コトミネがマスターである時はまだ良かったのだ。
 ヤツは我に逆らうでもなく、どちらかと言えば放任主義であったからな。
 だがあの女と来たら…………」

 あの女、というのはいうまでもなく彼とランサーの現マスター、カレン・オルテンシアである。
 教会の修復を終え、今ではそこで執務をこなしている筈だが。

「カレンが何かしたのか?」

「何もしないからいかんのだ!
 側に控えさせておきながら、一日中無言なのだぞ!?
 針の筵どころの話ではない!
 たまに何かするといえば、地味な仕事ばかり押し付けおって……。
 王を顎で使うとは何事か!
 あの女郎は我がイライラしている姿を見て愉しんでおるのだ!!」

 あー、そうだろうなぁ。アイツ、そういうの好きそうだし。
 と、うんうんと納得出来てしまう士郎。

「それにあの雑兵め……。
 いつの間にか逃げ出し、行方をくらませおって……」

 うぬぬぬぬぬ、と唸るギルガメッシュ。

「で、なんでアンタが衛宮くんの家に来るわけ?
 ランサーみたく何処へなりと雲隠れすればいいじゃない」

 凛が疑問を口にする。
 それはそうだ。稀にではあるがカレンもこの家を訪れる。
 そんなところを隠れ家にすれば、すぐに見つかってしまうだろう。

「うむ。この屋敷にはセイバーがいるからな」

 本音はそれかァァァァ!!

「これで我がこの家に住む気になった理由が判ったであろう。
 どれ、雑種。我に一番良い部屋を用意するがいい」

「却下」
「ダメです」
「無理ね」
「ちょっと厳しいですね……」
「キモイです」

「───!? 何故だ!? 我の苦労が貴様らには解らぬというのか!
 それとキモイとか言ったのは誰だ!!」

 ギャーギャーと喚き散らすギルガメッシュ。
 その様を見て、仕方ない。皆は反対するだろうけど一日二日くらいは────

 ────と思った矢先。

 ぎゅるん、と襖の奥より伸びてくる赤い影。

「────ぬ?」

 それは一直線にギルガメッシュの足へと巻きついていく。

「むむ? 嫌だぞ。これは嫌な予感がするぞ」

 精一杯の抵抗を口にする英雄王。
 それすら虚しく居間に響き渡り、襖の奥へと釣り上げられてしまった。

「──────ゲット」

 そのまま、ぐるぐると簀巻き状態されたギルガメッシュを足元に放置したまま、カレンは胸の前で祈るように腕を組む。

「ごきげんよう、皆さん。私の奴隷がご迷惑をお掛けしたようで」

「ふぐぉ、だふぇかぁどせぃか!!(貴様、誰が奴隷だ!!)」

 もごもごと何事かを叫び、びちびちとその身を揺らすギルガメッシュ。
 その様は、さながら陸に打ち揚げられた魚のよう。
 そこには既に王としての貫禄など微塵も存在していなかった。

「……駄犬の分際で主人に逆らうなんて。
 去勢するところだわ、この早漏」

「!? むげふぁはあふそっけぃであぉう!!(駄犬はあの雑兵であろう!!)」

 どんなに叫んでもカレンには柳に風、暖簾に腕押しである。

「今日のところはまだ執務が残っていますので、これで失礼します。
 さようなら、皆さん」

「あ、ああ。気をつけてな」

 ずりずりと引き摺られていくギルガメッシュ。
 まだ何やら叫んでいるようだが、もう士郎達に届く事はなかった。

 ……………………

「士郎ー、お茶淹れてー」

「私にもお願いします」

「おう。わかった」

「私もお手伝いしますね、先輩」

「さて、また読書でも──」


 ──こうして、麗かな休日の午後は過ぎて行く。









後書きと解説

短編を書こうとすると何故ギルが出張るのか。
うーん、なんでだろう?

子供の頃やりませんでした? チャイムの連打。
え? やったことない? そんなバカなッ!
アレ見てると無性に押したくなったのは私だけかァァァァ!

とまあアホなことは置いといて。
短編二作目です。
イメージとしては後日談の更に後、かな。
うーん、オチが弱いなぁ。精進精進。






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