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お嬢様、来日-後編









「じゃ、決まりね。契約条件の原案はわたしが考えておくから。
 貴女はそれに異議があった場合、わたしに申し出てくれればいいわ。
 それから調整していきましょ」

「ええ、構いません」

 リンは魔法の断片を提供するんですもの。
 私もそれ相応の対価を支払うことは当然のルールですわ。

「OK。じゃこれで一応、仮契約ってことで。
 わたしはここで纏めちゃうから、その間、貴女にはさっき言った魔術品を見てもらうわ」

「わかりました。それで、その品は今どこに?」

「わたしの部屋にある宝箱に入ってるわ。
 宝箱自体も第二魔法で作られたモノだから、一見の価値はあるかもね。
 わたしの部屋は階段上がってすぐの所よ。行けばわかると思うわ」

「………リンの部屋に入っても良い、という事ですの?」

「宝箱をここまで動かすのは骨だし、変な場所を荒らさなきゃ問題ないわよ。
 ほらほら、行った行った」

 背中を押されるようにリビングを追い出される。
 それに僅かな疑問を抱きつつも、魔法を垣間見れる、という高揚感に満たされていた私は気づかなかった。



 ─────そう、背後で邪悪な笑みを浮かべていたリンの真意に。






お嬢様、来日-後編/a sapphire II




/1


 いつになく軽い足取りで二階へと向かう。
 まさかこんな好機が訪れるとは夢にも思いませんでした。
 どんな交友関係も持っていて損という事はありませんわね。

 ……いいえ、違いますわ。
 私とリンの間にはもう既に海より深い信頼関係がありますもの。
 同じ魔法を、根源を目指す者としての固い絆で結ばれた関係。いわば同志。一蓮托生。
 そんな浅いもので括るなんてもっての他。

 鼻歌でも口ずさみたくなる程の陽気な気分を抑えながら一歩一歩と進んでいく。
 そして階段を上ってすぐの場所に、リンの部屋と思われる扉を見つけた。

 ええ、ええ今見ればこの邸宅もそこまで悪くはありませんわね。
 こう、なんというか趣深いものがありましてよ。
 チンケなどと言って、申し訳ありませんでしたわ。

 心の中で一つ謝罪をし、緩む口元を引き締め、ドアノブに手をかける。
 いざ、魔法への扉を開きますわよ!!

 ガチャリ、と回し室内へ。

「…………………………」

 そこは、リビングにあったアンティーク類と似た家具で統一された一室。
 なるほど、屋敷全体がある種の統一感を持った様相になっているようね。
 そういう趣味には共感いたしますわ。
 変にあれやこれやと高級品で満たせば良いというものでもありませんから。

 ぐるりと辺りを見渡せば、それは容易く発見できた。
 一際大きなクローゼットの横に置いてある古びた箱。
 鉄製の部分は煤で黒ずみ、木製の部分には無数の傷が残る、一目で宝箱と判る大きな箱。
 これが………第二魔法で作られたもの、ですって?

「見えませんわ…………」

 つぃ、っと指先で触れてみる。
 本当に物語で出てくるような宝箱と変わらない。
 材質も見た目は鉄と木材に見えるが……。
 なるほど、神秘とは秘匿されるべきもの。
 そういう視点で見ればこれは完璧な品と言えるでしょう。
 誰がどう見ても、宝箱以外に認識できないのだから。

 錠前は……ついていませんわね。
 では早速、開けてみましょう。

 ギギギギギ、という立て付けの悪い扉のような音を立て開かれる、魔法の片鱗。
 手にとって見たい、という逸る心を抑え、よく観察する。
 他の魔術師の魔術品に触れる以上、どんな事が起こるか全く予想できない。
 最大限の注意を払うのは当然の義務。

 じっくりと品定めするように見回す事、数秒。
 途端、目がおかしくなったような、錯覚を起こしているような感じがした。

「なんですの? これ」

 明らかに入っているものと箱の容積が違う。
 本来入らないであろうモノまで、何故かごちゃごちゃに収納されていた。

「なるほど……箱の中はある種の屈折空間になっているようですね。
 入りさえすれば何でも収納可能、と。………とても便利な箱ですわ」

 とりあえず目当ての魔術品を探す為、箱の中を漁ってみる。

「あら?……かなり奥まで物で溢れておりますわね。
 全く、日頃からちゃんと整理整頓しておかないからですわっ」

 奥まった場所に置かれている物には手を伸ばしても届きそうにない。
 仕方がないので、箱の中にあった杖をつっかえ棒にして、箱の中に入る。

「……本当に入れましたわ。さすが宝石翁が作った箱だけのコトはありますわね」

 ふんふ〜ん、と鼻歌を口ずさみ、箱の中を探索。
 目当ての品はリンですら解けない一品。
 見ればすぐにわかりそうなものですけれど………。
 と、その時────

 ガコンッ!!

「な、なんですの!?」

 ギィィィィィ

 それは本当に一瞬の出来事。
 つっかえ棒にしていた杖が、滑り落ちるように箱の内へと転がり込んだだけの話。

「しまっ…………!!!」

 手を伸ばすも時、既に遅し。
 重力に引かれ落ちゆくフタは、抗うことなく、無情にも箱の内(セカイ)箱の外(セカイ)を切り離した。



 ガチャリ。





/2


 ジャーッと水の流れる音。
 蛇口より溢れ出る水が、カップの汚れを綺麗に落としていく。
 飲み終えたカップを洗い終わり、雫の垂れる手をタオルで拭き、一息ついた。

「よし。こんなもんかな」

 キッチンを後にし、リビングへと向かう。
 と、そこには眼鏡をかけて書面と睨みあっている遠坂の姿しかなかった。
 そういえば、二人で何か話していたようだけど、洗い物をしていた俺は水の音で聞き取ることができなかった。
 なので、ここは当事者に訊くのが手っ取り早いだろう。

「遠坂。ルヴィアはどこへ行ったんだ?」

 むーっと唸ったまま、顔を上げることなく声を上げる。

「ルヴィアならわたしの部屋よ。見て貰いたい魔術品があったの。
 あ、邪魔しちゃダメだからね。ちょっと取り扱いが難しいヤツだし」

 そりゃ邪魔なんてする気はないけど。
 ……珍しいな。遠坂が他人においそれと自分の持ち物を見せるなんて。
 何かあったのか?

 ………ま、考えても仕方ないか。
 遠坂も忙しそうだし、邪魔しちゃ悪いよな。
 居間にも居づらいし、どうしたもんか。



 




 ────そう、士郎に邪魔されちゃ全てが台無し。

「何居づらそうに頭掻いてんのよ。
 そうされる方がよっぽど気が散るわ。ほら、座りなさい」

 言って、僅かに体をずらし隣に座るよう促す。
 それに素直に従う士郎。よしよし。

「……で、何書いているんだ?」

「んー、契約書」

 さらさらと淀みなく手を動かし少しずつ綴っていく。
 そう、共同研究の提案は嘘ではない。
 はっきり言ってムカつくけど、アイツの才能、能力は本当にわたしと比べて遜色ないモノだ。
 もし二人で研究していければ、単純計算で二倍は早く進むだろう。

 でも今回の計画次第でどう転ぶかわからない。
 ま、わたしとしても組めればOK、組めなくてもOKだし。
 一人でだってやれるし、士郎もいるし。
 そしてわたしは、いつかは必ず辿り着く。そう自分を信じてる。
 ならそれは早いか、遅いかの違いでしかない。

 ふと、横に視線を移すと、いかにも嫌そうな顔をした男と目があった。

「契約書って………また宝石か?」

「違うわよ。ルヴィアとの契約書」

 全く、なんでもかんでも宝石と結びつけるのは止して欲しいわね。
 ………うん、ちょっとは自覚してるけど。

「?」

 それに首を捻る士郎。

「成立したら教えてあげるわよ。とりあえず今は黙って見てなさいな」

 わたしとルヴィアが似てる点は他にもある。
 勝気な性格、腕っ節の強さ、閃き、………うっかりでさえも同じ。

 とりわけ重要なのが最後のやつ。今回の作戦に欠かせない最重要ファクター。
 あの宝箱を漁り、魔術品を求めるというのなら。
 必ず、必ずルヴィアはアレに囚われる。

 うふふふふふ、ああ……笑いが堪えきれない。
 楽しみだわ、羞恥に濡れるアナタの姿を見るのが。
 バッチリ写真に収めてあげるから、安心なさい。
 この為に、わざわざ使い捨てカメラの使い方を入念に覚えたんだから。
 ………五個くらい犠牲になって貰ったけど。

 と、とにかく。言ったでしょう? ルヴィア。相応(・・)のもてなしをしてあげるってね。

 貴女自身も言ってたじゃない。わたしはしつこいって。
 あのあだ名も(七月のポピンズ)。あの屈辱も(ノーリッジ学生寮の件)。
 まだ忘れてなんかいないわよ?
 それに、『わたしの衛宮くん』に手を出そうっていうんですもの。



 ────覚悟はもちろん、あるわよね?  





/3


「くっ………。私としたことが」

 とんだ失態を。
 そもそもあの丸みを帯びた杖をつっかえ棒にしたのが運の尽き。
 なんて───無様。
 歯噛みし、悪態をついても状況は何も変わりはしない。
 とりあえず、今自分の置かれている状況を把握しなくては。

「やっぱり………開きませんわね。期待はしていませんでしたけど」

 フタを押し上げても開く気配が無い。
 だがそれも当然。
 魔術品を納める箱というからには、中から簡単に開いては意味がない。

「内側から魔術を発動させるわけにも行きませんし……。
 というよりも、第二魔法で作られた物を壊せるような魔術も魔術礼装も私にはありませんわ。
 ………手詰まりですわね」

 最善の選択は待つこと。
 幸いリビングにはリンとシェロがおりますし。
 私が幾ら時間が経っても戻らなければ、必ず助けに来てくれるでしょう。

 ────ただ一つ、問題がある。

「シェロが来てくれるなら嬉しいのですけれど………。
 もし、リンが来たら……………」

 ぜっっったいに。

「笑いものにされますわ」

 それだけは何としても避けたい。
 あの女に笑われるなんてこの上ない屈辱。
 いかに共同研究を行う仲と言っても、これとそれとは別問題。
 なんとか自力で脱出する方法を考えなければ………。

 思考を巡らせる。
 何か……何かないか。自身の魔術ではダメ。手持ちの礼装でもダメ。
 私自身のモノじゃ、きっとこの箱は開けられない。

 ………そう。なら他の物を使えば良い。
 魔術師とは、足りなければ余所から持ってくるもの。
 ……………?

「あっ!」

 そうですわよ! この箱は魔術品を収める箱、しかも第二魔法の応用で作られた強固な檻!
 言い換えれば、この箱でなければ(・・・・・・・・)封印できないような(・・・・・・・・・)強力な魔術礼装(・・・・・・・)があってもおかしくはない!!

「そうと決めれば、後は探し出すだけですわ!」

 一縷(いちる)の望みを託し、箱の中を捜索。物に溢れる海で救いの手を探し続ける。
 明らかに魔術品とは呼べない物も幾つか混じっているようですけど……余程、整理整頓が苦手のようですわね。とりあえず放り込んだ、という感じがしますわ。

 ────余談だが。ルヴィアはリンを嘲笑ってはいるが、彼女も整理整頓とは縁がない。

 そんなガラクタには目もくれず、魔力の欠片を感じる品を片っ端から見繕う。
 手にとっては投げ、手にとっては投げ捨てる。

「痛っ……………」

 無差別に漁りすぎたのか、何か尖ったもので指先を切ってしまった。
 ポタリポタリ、と垂れ落ちる赤い血液。
 手当てする物もないので、口で咥え、血を啜り、一応の処置を施す。

 ─────刹那

「─────ッ! なんですの!? この魔力っ!」

 足元。血が滴り落ちた場所に転がっていたナニか。
 そこから鈍い赤光が放たれ、強烈な魔力が渦巻いている。
 その本体は……

「あの時の……杖?」

 そう。ルヴィアが箱の中へと入る時、フタを支える為のつっかえ棒とした杖。
 オモチャのような外見で、先端にある円の中心に黄色い星が煌めき、左右には白い翼が生えている杖、というよりむしろステッキ。
 まさしく子供向けのアニメに出てきそうなマジカルなステッキ。

「さっきまでは微塵も魔力など感じられませんでしたのに……」

 その言葉に応えるかのように杖は明滅を繰り返し

『ふ───ふふふ、ようやく見つけました!
 問わずとも! 貴女が私の(二人目の)マスターです!!』

「……………………」

 ほがらかかつイタズラ好き、大人だけど少女のような、割烹着の似合いそうな女の子の声が、頭の中に響き渡った。  





/4


 カチ。カチ。カチ。

 リビングに響くのは時を刻む微かな音だけ。
 遅い。あまりにも遅すぎる。

 何が遅いのか? 言うまでもない。ルヴィアだ。
 俺が食器を洗い終わり、リビングに来てから既に三時間余り。
 魔術品の鑑定だか研究だか実験だか知らないが、あまりにも遅すぎる。

 見に行きたい。
 もしかしたら、何か良からぬ事が起こっているのかも知れない。
 ここには戻って来れない何かが起こっているのかも知れない。
 その思いが気持ちを急かし、焦燥感が募っていく。

 だけど、動けない。

 俺の膝の上で遠坂が眠っているからだ。
 長旅の疲れと書面との睨めっこによる疲れが、ここに来てどっと出たのだろう。
 ここで起こすのは気が引けるし、この寝顔はまだ見ていたい。

 だから、動かない。

 ルヴィアの無事を確認したい俺の気持ちと、このまま動きたくない俺の気持ちが鬩ぎ合う。

「ああ、どうすればいいんだ………」

 そんな俺の呟きも、虚しく部屋に響くだけ。
 ────時計だけが、確かな時間を刻んでいく。







 ────沈黙が流れる。

 停止しようとする思考を無理矢理に動かし、現状を分析する。
 当面の疑問を見つけ、それを確認する為に一つ深呼吸し

「貴女………今、喋りまして?」

 目の前にあるソレに話しかけた。

『はい。私、カレイドステッキの機能、指針、気持ちなどを代弁する人工天然精霊、マジカルルビーと申します。
 あ、しかし貴女のイメージカラーからするとルビーは相応しくありませんねぇ。
 ではではマジカルルビー改め、マジカルサファイアと申します。気安くサファイアとお呼び下さい』

「あ、え?………はあ。ご丁寧に、どうも」

 喋りまくる杖に気圧され、気のない返事をしてしまう。
 ぽかんとする私を尻目に、杖……サファイアは確認するように問う。

『ところで貴女は……ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトさんで間違いないですね?』

「!? 何故貴女が私の名を知っていますの?」

『やですねぇ〜。私はあのクソじじい……もといゼルレッチが作った愉快型魔術礼装ですよ?
 それくらい見通せなきゃやってられませんよ〜』

 あは〜、と(わら)うカレイドステッキ。
 ゼルレッチが作った魔術礼装……という事はこれもおそらく第二魔法の応用。
 ならば、これが私の求めたものかもしれません。

「ねぇ、貴女。ここから脱出する方法を知らなくて?」

『あ、そんなのは簡単ですよ。私の力でちょちょいのちょいです♪』

 その言葉に、弾むように心が躍る。
 やりましたわ! これであの女に笑われなくて済む!
 心の中でガッツポーズ! 気分はもう解放されましたわ!

『あ、ですが一つ問題がありまして』

 光が弱まり、しょんぼりした感じを演出するサファイア。
 ……一々芸の細かい杖ですわね。

「なんですの? 大抵のことでしたら受け入れますわよ」

『あは〜、流石はルヴィアさん! どこぞの赤いのとはワケが違いますぅ〜』

 どこぞの赤いの……リン、ですわよね。

『で、問題というのはですね。
 私個人の力ではここからの脱出は不可能でして。どれだけの力を持とうと所詮、杖ですから』

 しくしく、とキモノの袖で涙を隠すマジカルサファイア。
 いえ、杖ですのでなんとなくそのような感じがするだけですが。

『ですからルヴィアさんのお力をお借りしたい次第でありましてー。あ、採血(とうろく)は済んでいますので、後はルヴィアさんがウンと言えば、(一生消せない)契約の完了ですよー』

「…………………」

 今、不穏な言葉が聞こえましたわ。聞こえてはならない言葉が。
 私、このままこの杖と契約してしまって本当にいいのかしら。

『あれあれ? どうしちゃったんですか? さっきまではノリノリでしたのにー』

「ええ。ちょっと、ね」

 ……どうしましょう。
 このまま進むと、二度と戻れないような気がしますわ。

『いいんですか〜? 早くしないとヤバイですよ?』

 何がですの?

『言い忘れてましたけど、この箱の中と外では時間の流れが違うんです。
 こっちの一時間が向こうの一日に相当しますのでー。
 つまり、外の世界は既に三時間近く経過してるんですよ〜』

「──────!?」

 そうですわ、ここは並行世界を運営するゼルレッチの作った箱の中。
 それくらい起こっても、なんて事のない空間ですけど。
 それが今だけは非常にまずい。
 こっちで後数分、いえ今すぐにでも不審に思ったリンが見に来るかもしれない。
 あああああああ、私は一体どうしたら…………。

『ほらほら、早く決めちゃいましょうよー。
 そうしないと箱の中にちょこんと座るルヴィアさんを、凛さんに見られちゃうかもしれませんよぅ?』

 くうぅぅぅぅ、なんて口の巧い杖なんでしょう。
 ですが、それだけは何としても避けなければいけない問題。
 箱の中に入った無様な私をリンに見られるか、この杖と契約し脱出するか。

『わかりました。強情なルヴィアさんに免じて、私、大奮発しちゃいます!
 ここから出たら士郎さん……もとい、シェロさんをマスコットキャラとして御付けしましょう!
 凛さんからシェロさんを奪う最大のチャンスをプレゼント!!』

 くっ─────!
 ええい、こうなったらもう行くしかありませんわね。
 このままただ時が過ぎるのを待ち、痴態を晒すくらいなら。
 この杖と契約し、無事脱出してシェロも手に入れます!

「わかりましたわ、サファイア!
 既に私と貴女は一蓮托生。ですから私は……貴女との、契約を望みます!」

 がしり、とカレイドステッキを握り締める。

『ふふふ────ふふふふふ、まさに計算どおりです!
 こっちはあっちと違って案外、落としやすかったですねー』

「!? 貴女、何を言って……」

 ぎゅんぎゅんと魔力を増し光輝く杖。
 それにえも知れぬ不安を感じ、手放そうとするが

『無駄です、契約に必要な手順は全て整いました!
 血液によるマスター認証、接触による使用の契約、そして───私を起動させる為のエネルギー、スーパーオトメ力! いただきましたよー!
 あ、領収書はウエ様でお願いしますー』

 カレイドステッキが閃光する。
 ああ…………私の選択は………正しかったのでしょうか。

『ではでは、青い方を魔法少女に多元転身(プリズムトランス)ですよー。
 あ、詠唱は赤い方のを流用しますので、あしからず〜』

 ええい、もうヤケですわ! なるようになりなさい!!

「行きますわよ、サファイア!
 コンパクトフルオープン! 鏡面回廊最大展開!
 Der(デア) Spiegelform(シュピーゲルフォルム) wird(ヴィルト) fertig(フェアティッヒ) zum(ツム) Transport(トランスポルト)───!」

Ja(ヤー), meine(マイネ) Meisterin(マイステリン)……!
 Offnunug(エフヌング) des(デス) Kaleidoskopsgatter(カレイドスコープガッター)───!』

 青光が乱舞し、ルヴィアの身体を包み込む。
 ブルーのドレスは、粒子に変換され、新たな衣装が現れる。

 ノースリーブの青を基調とし、銀の装飾を散りばめたドレスはスカートの丈が非常に短い。
 しかし幾重にも折り重なるペチコートにより、そこは見えそうで見えない、神秘の領域を形取る。
 腕にはロイヤルブルーのアームウォーマー、手の甲にはサファイアを模した蒼の宝石が燦然と輝く。
 脚には腕とお揃いのニーソックスが装備され、スカートとの間に眩いばかりの絶対領域を作り上げる。

 その姿はまさに────魔法少女!!

「さあ、時間がありませんわ!
 決め台詞はシェロの前でね☆ 一刻も早く脱出しますわよ!」

『その通りですマイマスター!
 次週、新番組魔法少女カレイドサファイア最終話、
 “死闘! カレイドルビーvsカレイドサファイア! 希望と絶望の果てに、マスコットは何を見る!?”にスカーレット・スカッド発射ですよー!』

 ────そこには既に突っ込み役はおらず。

 収束する魔力の渦。
 この狭苦しくも果てのない魔法の箱を満たすほどの魔力量が、一瞬にしてカレイドステッキに凝縮される。

「開けシュバインオーグ!
 我は我の望む場所へ、我は我の望む法を!
 せーの、Sesam, offne dich!」

『キャー☆ステキですマイマスター!
 遂にやりました! 二人目、青い方もゲットですー!』





/5


 ────ダメだ。これ以上は待てない。
 既に四時間はゆうに経っている。
 もう何かが起こったのは間違いない。

 遠坂には悪いが、俺はルヴィアを探しに行く。
 と、立ち上がろうとした時。

「ぅ………ん」

 聴こえてくる微かな声。
 微睡みの中から覚めようとしているようだ。

「おい、遠坂。起きてくれ」

「ぅ〜ん……ん? なぁーに、しろぅ」

「目を覚ましてくれ。ルヴィアがまだ戻ってきてないんだ」

 ぽーっとしたまま、未だ醒めきらない頭で俺の言葉を理解しようとしている遠坂。
 数秒後、

「やばっ─────!?」

 がばっと身体を起こそうとする遠坂。
 だけどそれは阻まれる。

 ごちん

「ぃ──────っ!」

 俺の頭と遠坂の頭がぶつかる位置にあるからだ。

「いった〜っ、ちょっと士郎! 何すんのよ!」

 ………言い掛かりだ。
 だけど今はそんな細かな事に構っていられない。
 おでこを擦りながら今一番重要な事を伝える。

「遠坂。ルヴィアがまだ戻ってきていない。
 目が覚めたなら探しにいこう」

 それを聞き額を押さえたまま、何かを探すように辺りを見回す。

「んー……四時間強か。
 微妙だけど……見に行ってみましょうか」

 小声で何事かを呟く遠坂。
 納得すると立ち上がり、よしっと気合を入れる。

「OK、行きましょ士郎。ルヴィアはわたしの部屋にいる筈よ」







 急かされるように階段を駆け上がる。
 何か。とても良くない事が起こりそうな予感で身体が震える。

 そして遠坂の部屋の前へと辿り着くと、有無を言わさずその扉に手をかけた。

「ルヴィア!」

 しかし開かれた扉の先、部屋の中には───人の姿などなかった。

 室内には荒らされた形跡も、研究をしていた痕跡もない。
 まるで、ここでは何もなかったかのような静けさに満ちていた。

「……遠坂。どういう事だ? ルヴィアはここに居るんじゃなかったのか?」

「ん、居るわよ」

「は?」

 居るって何処に? 見渡したって影も形もないじゃないか。

「まさかタンスの中とか言うんじゃないだろうな」

 それこそまさか。かくれんぼでもあるまいし。

「士郎にしては鋭いんじゃない? ルヴィアはここよ。こーこ」

 遠坂が指さす先。
 そこは。

「ここって……この宝箱?」

 まさか。どうやったって人が入れる大きさの箱じゃない。
 無理だろって………あれ? ……………なんだ、この既視感。

「なあ遠坂。俺、この箱見るの初めてだよな?」

 そう、初めてのはず。俺はこんな宝箱なんて知らない。
 なのに、知らないはずなのに知っているようなこの感覚。
 そして、なんだかとてつもない悪夢を見たような………。

「さあ? 見せたことあるような気もするし、見せてないような気もするわね。
 ま、今はそんな事は関係ないでしょう?」

 そうだ。見たことのあるなしなんて関係ない。
 この中に本当にルヴィアが入っているなら助けてあげないと。

「よし、開けるぞ?」

「いつでもOKよ」

 ……って遠坂。なんでカメラなんて構えてるんだよ。
 いや、気にするな。さっさと開けてしまおう。

 ────箱の中には少女がぴったりと入ってゐた────

 いやいや。
 そうなんだろうけど、そのフレーズはおかしいだろ。

 ────箱の中には魔法少女がぴったりと入ってゐた────

 いやいやいや。
 そんな悪夢は二度とごめんだって……あれ?

 キィィィィ

 ────内側からは決して開くはずのない箱が、ひとりでに開いていく。
 ってだから俺はなんでそんな事知ってるんだ!?

「お、おい、遠坂! この箱勝手に開いてるぞ!」

「来た! 来たわね! ルヴィアなら必ずやると思ったわ!
 ちょっと士郎、そこをどきなさい!」

「うげぇ───っ」

 箱を開けようと屈み込んでいた俺を横蹴り一閃、吹き飛ばした遠坂は箱の前のベストポジションでカメラを構えている。
 ワケがわからない………一体なんなんだ………。

 閃光と共に開かれる、開けてはいけない禁断の箱。
 中から飛び出す災厄の名は─────

「はぁい、お待たせ♪ 魔法少女カレイドサファイア、ここに参上!
 ────どうシェロ? 初めての変身にしては上出来でしょう!?」

 ………いや、あの、何この魔法少女。

 パシャ! パシャ!

 響くのは機械音。煌めくのはフラッシュ。
 遠坂の手に構えられたカメラは、とめどなくシャッターを切られ続ける。
 ………なるほど。これが狙いだったのですね、遠坂さん。

「ふふふふふ……やった、やったわ!
 とうとう収めてやったわ、その痴態!! さあ、ルヴィア!
 この写真をバラまかれたくなかったら、一生わたしに従いなさい!!」

 恍惚の表情でルヴィア?に迫る遠坂。
 確かにこんな格好をしてるのをバラまかれたら、たまったもんじゃないだろう。
 だがルヴィアはその言葉に怪訝そうに顔を顰め、自分の身なりを確認する。

「ミス・トオサカ。私、どこかおかしくて?」

「へ──────?」

 それは予想外の返答。

「ですから私、どこかおかしいかしら?」

 心底わからない、と言った顔で遠坂に問うルヴィア。
 それにぷるぷると震え、顔を赤くする遠坂さん。
 マズイ。これはキレるちょくぜ───

「な、なんでよーーーーーーーーー!?」

 あ、キレた。

「ちょっとルヴィア!? アンタ今自分がどんな格好してるかちゃんと判ってる!?
 魔法少女よ、魔法少女!! フリフリのスカートにネコミミ、シッポ付よ!?!?
 どこかおかしいかしら、じゃないでしょうがーーーーーーーーーっ!!!」

 フーッフーッとネコのように息を切らせ、肩を上下させる遠坂。
 うん。俺も遠坂の意見には大賛成だ。
 というか、なんでルヴィアは平然としているんだ。

「ふっ、甘いですわねミス・トオサカ。
 この程度、着こなせなくて何が淑女ですか」

 いや、ないから。
 そんな淑女規定、世界中どこ探しても存在しないから。

「さて。さあ、サファイア。
 シェロを奪う為、このあくまを倒しましてよ」

『あはー。待ってくださいな、マイマスター。
 ここはですね………』

 何やらごにょごにょと喋る杖。ってか何喋ってんの、この呪いのステッキ。
 前は外に出たら喋らなくなったくせに…………前って?

「なるほど。それは私の望むところでしてよ。
 ではリン、貴女も変身なさい」

「「は───────?」」

 俺と遠坂の声がハモる。

「わかりませんの? シェロをかけて勝負しろ、と言っていますのよ。
 このままシェロを奪うこともできますけど、それは私の本意ではありません。
 勝負は対等に、同じ土俵で戦って負かす。
 そしてシェロをいただきますわ!」

 …………もう何から突っ込めばいいか、わからない。
 ルヴィアはまだあの杖に洗脳されてるのか?……洗脳?

「ふ、ふふふふふふ…………あはははははははははは!」

 狂ったように、壊れたように腹の底から笑い出す遠坂。
 ヤバイ。何がヤバイってそりゃもう俺の命がヤバそう。

「そうよ、そうよね。
 普段からあんなド派手なドレスを着てるんですもの。
 その程度の変身じゃあ、ビクともしないわよね。
 ええ、ええ、わかったわよ。こうなりゃ、こっちも変身してやろうじゃないの!」

 いぃ───!? ちょ、何言ってんのこの赤いあくま!?
 そんなことしたら本当に収拾がつかなく───

「おほほほほほ、それでよろしくてよ。
 さあ、とっとと変身して勝負ですわ!」

 言って手袋、もとい杖を投げるルヴィア。
 やーめーてー、二人も魔法少女が現れたら脳死しちゃうからー!

『これは凛さん、お久しぶりですー。
 やや、この数年でどうやら愛と正義に目覚めたようですね〜』

「うっさいバカ杖。さっさと変身させなさい!」

『凛さんから求めてくるなんてルビーちゃん感激です〜☆
 詠唱は(面倒なので)省略ですよー、てやや〜』

 赤い閃光が放たれ、遠坂を包み込む。
 現れたるはルヴィアとの色違いの魔法少女。いつか見たような魔法少女だった。

「はぁい、お待たせみんな!
 愛と正義の執行者、カレイドルビー、ここに参上!
 愛するシェロにはストロベリーで血濡れの愛をプレゼント!」

 ああ………もう死にたい。

『やりました! 遂に二人の魔法少女の対面ですー!』

 歓喜の声をあげ、打ち震えるマジカルルビー。
 切嗣………俺もう、疲れたよ。

「さあ、行きますわよカレイドルビー。
 今日この時を以って、シェロは私のモノですわ!!」

「バカ言うんじゃないわよ、カレイドサファイア!
 士郎は私のものなんだからーっ!」

 手に持っていた杖、カレイドステッキを放り棄て、魔術戦を行おうとする赤と青の魔法少女。
 …………なあ、遠坂。変身した意味、ないんじゃないか?

 放られたステッキが俺の足元に転がってくる。

『や、これは士郎さん。お久しぶりですねー。
 お元気でした?』

「ああ。元気だったけど、おまえのせいで元気がなくなったよ」

『あはー、それはなによりですねー』

「………でさ、おまえは一体何がしたかったの?」

『それはですね〜』

「訊くだけ無駄だな。どうせ理由なんかないんだろ。
 楽しけりゃそれでいいんだろ?」

『ちぇっ、つれないですね、士郎さん。
 あ、ほらほら。とうとう凛さんとルヴィアさんのバトルが始まりますよー』

 ああ、もう………誰か俺をこの不思議空間から連れだしてくれ………。









後書きと解説

はい、gdgdです。
どこで見切りをつけるかわかんなくなってズルズルと……。
というか前後編の分量に差がありすぎだorz。

設定的に無理っぽかった電話は暇があれば書こうかな……などと考えております。



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