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アインツベルン・シンドローム-No.3









 …………なんのかんのと時を経て、ようやくこのパーティに呼ばれた全員が一同に会した。

 先の一騒動の後、カレンは遠坂と桜に無理矢理に連行され(カレンの抵抗は無い)、ウェディングドレスからペチコートが折り重なり、ふわりとした感じを演出するショートドレスへと着替えさせられていた。
 いや、まったく。あのサドマゾシスターの破天荒ぶりは常軌を逸している。アイツが歩けば俺が棒にあたるように定めれているんじゃないのか? と、勘繰りたくなる。

「いやー、大変でしたね、お兄さん」

 にへらと笑う子ギル。

「なあ、止めようとか思わなかったのか?」

 コイツは最初から知っていたはずだ。カレンが何をしようとしていたのか。でなければ、あそこで一緒に登場できないだろう。

「ボクが止めたところで聞いてくれると思いますか?」

 ………逡巡するまでも無い。

「でしょう? それに仮にもボクのマスターですから逆らえません。
 ランサーさんと違って、ボクは令呪の縛りもガッチリですからねー」

 あはは、と自分の不遇を嘆くことなく笑う英雄王(小)。不遇といえばこっちも同義だ。書かれていない部分で結構アレな目にあってるんだぞ。どちらも相手が女性である事にはい、注目。ここ、テストにでるから。
 そんなイヤな部分でシンパシーを感じている頃、リズにグラスを手渡され、イリヤが用意された壇上でスピーチを行おうとしていた。

『皆様。本日は私の招待に応じていただき、ありがとうございます』

 恭しく礼をするイリヤ。さすが、淑女の嗜みが身についている。

『幾つかハプニングがあったようですが実害は殆ど無かったので良しとしましょう』

 ………イリヤよ。俺の心の傷痕はその実害には入らないのだろうか、入らないんだろうな。

『本日は無礼講、とまでは行きませんが、皆様にお楽しみ頂けるように出来うる限りのもてなしをさせていただきます。
 まずは立食パーティと称して世界中からあらゆる料理を集めてみましたので、ご賞味下さい』

 スピーチの間にもせっせと並べられていく数々の料理。
 それに目を輝かせるのは俺の隣にいるセイバーさん。その瞳にはかつて無いほどの光が宿り、体がウズウズと揺れている。並べられた料理を見比べながら、どの順番で食べるのが最も効率的か、などと思案しているようにさえ見える。きっと彼女の耳には、イリヤのスピーチなど届いていないだろう。

『えー、じゃ堅苦しい挨拶はこの辺りで終わりにさせてもらうわ。
 さあ、みんな! 今夜は思う存分楽しんで頂戴! 乾杯!!』

 天高く掲げられたグラスに入った液体が揺れる。
 それに呼応するように皆もその手のグラスを空に掲げる。


 ────さあ、パーティの始まりだ。






アインツベルン・シンドローム-No.3/Transient Memories III




Phase 1/セイバー


 テーブルいっぱいに並べられた料理の中から適当に見繕い、小皿に取り分ける。それに舌鼓を打ちながら、このパーティを楽しむコトにした。

「セイバー、美味いか?」

 俺と同じように小皿に料理を取り分け、ハムハムコクコクと上品に食べるセイバー。いかに彩り鮮やかな料理群を目の前にしてもがっつくようには食べないのがセイバーだ。それなのに目の前に並ぶ料理が脅威の勢いで目減りしていくのは如何なる技か。

「はい。さすがはイリヤスフィールだ。どれも大変美味しい。しかし……」

 ん? なんだ、何か不満があるのか? 俺も食べてみたが、どれもこれも文句のつけようのないほど美味いぞ。

「私はやはり、シロウの料理が一番好ましい」

 そう言って微笑むセイバーは反則級の可愛さだ。いつもと違う格好、髪型も相まって、いつも以上にドキドキさせられる。

「う、いや、あの。それは作る身の俺としては最大級の褒め言葉だな。
 ありがとう、セイバー」

 なんとか笑顔を作り、感謝の意を伝える。数秒微笑みを交わした後、セイバーは料理の山に向き直り全てを食べ尽くさんと箸を進める。
 ………俺の料理の方がいいけど、これはこれで美味しいから食べなければせっかく用意してくれたイリヤに対して失礼だ、などと考えていそうだ。………うん、やっぱりセイバーだ。
 そのあまりにも真剣な眼差しに気圧され、なんだか邪魔しちゃ悪い気分になったので、他のところにでも行ってみようか。


Phase 2/凛&アーチャー


「あ、士郎」

 中華に舌鼓を打つ遠坂とグラスを傾けているアーチャー。聖杯戦争以後一緒に居る事の少なかった二人が、今日は珍しく一緒に食事をしている。

「よう、食べてるか?」

「ええ。せっかく色んな料理が食べられるんだもの。
 食べなきゃ損じゃない」

 体に染み付いた倹約家の性か。食べられる時に食べるという至極当たり前の理論を展開していた。

「ところで衛宮くん? さっきの、伝わってたかしら?」

 さっきの? ……………ああ、女性陣入場時の視線でのテレパシー光線か。伝わるは伝わったけど、遠坂の真意が読み切れたかは定かではないぞ?

「で、衛宮くんから見て今のわたしはどう?」

 小皿を置き、くるりと一回転する遠坂。開幕直後より鮮血乱舞………の如く真紅のドレスが風に舞う。そして向き直った時には不敵なまでの笑みを浮かべていた。
 それに俺はあの時思ったのと同じく、この赤はやっぱり遠坂によく映えていると感じた。いや、遠坂以外じゃこの赤は着こせないって思うくらいに。

「あー、えっと、うん。とっても似合ってる。
 赤色の服を見慣れてるけど、これはまた格別に似合ってる。うん、綺麗だ」

「……………………ありがと」

 赤のドレスに迫るくらいに顔を朱に染めてそっぽを向く遠坂。
 おお、どうせ「………30点。まだまだね」とか言われると思ってたのに。

「何よ、その顔は。わたしが素直なのがそんなに珍しい?」

 ムーッと唸るような目つきで睨まれる。それにうん、珍しい。とは言わず。

「いや、そういうワケじゃないけど」

 それきり、どちらともなく会話が途切れ、口を開くことが無くなった。
 うぅ……なんだ、この妙な空気は。

「士郎………」

「と、遠坂?」

 な、なんだ? 場の雰囲気がそうさせるのか。何時に無く、遠坂が色っぽく見えてしまう。
 まさか、このまま…………。

「………ふむ。
 良いムードになるのは構わんが、時と場所くらい選んだらどうかね?
 凛、それに衛宮士郎」

 俺達を現実へと引き摺り戻したのは白タキシードのガングロ若白髪、アーチャーだった。くそう……そういえばコイツが居るのを忘れてた。冒頭のモノローグに登場してるのに。

「くっくっく。相も変わらずの節操なしだな、衛宮士郎。
 先の騒動をもう忘れたのか」

 グラスの中のアルコールを口に含み、口元を歪ませるアーチャー。
 くそっ、オマエだって衛宮士郎だろうがっ! それにさっきのは濡れ衣だ。………変なフラッシュバックは見たけど、俺にその時の記憶がないんだから事実なんかじゃないやいっ!

 語尾が変になるくらいに頭にキた状態で、アーチャーを睨みつける。それをまるで無視したように、嘲笑うようにこちらに視線を向けてくる。やる気か、やるか、やっちまうか!?

「あー、そこまでよ、士郎、アーチャー。
 あんたら一緒に居たら何も無くてもケンカ腰になるの、いい加減に止しなさいよ」

「いや、だってコイツがだな………」

「はいはい。言い訳はまた後で聞いてあげるから、桜のところにでも行ってあげなさいな。
 きっと待ってるわよ」

「む……うん。わかった。悪いな、遠坂」

 熱暴走を起こした脳をクールダウンさせ、遠坂に背を向ける。
 一つ深呼吸。ふう、やっぱりアイツとは、火と氷の如く反りが合わない。


Phase 3/桜&ライダー


「あ、先輩ー!」
「………士郎?」

 こちらに気づいたのか、笑顔で手を振ってくれる桜と、鈍色の視線だけをこちらに移すライダー。なんだ? ライダーのその目は何か言いたげだ。

「先輩! さっきはありがとうございました!」

 桜らしい微笑みで感謝されてしまった。

「え、いや。ただ俺が思ったことを正直に言ったまでだから」

「あ、う。えへへ、そうですか?
 こういうの着慣れてませんから、ちょっと不安だったんですけど……」

「それは俺も同じかな。
 このタキシードっていうの、襟元が締まってちょっと苦しいし。
 俺には全然似合ってないし」

「そ、そんなことないです! 先輩、すごく格好いいです!!」

 ぐぐっと拳に力を込め、力説されてしまった。そういえば格好について何かを言われたの、桜が初めてだな。………なんだかムズムズする。

「あれ、先輩。ちょっと失礼しますね」

 言って俺の目と鼻の先まで歩み寄って来る桜。
 そんな桜から微かに香る、淡い香水の匂いについ意識が向いてしまう。更には結構際どいドレスを着てるもんだから、目が自然と胸元に……。
 ………それに気づいていたのかは分からないが、俺の乱れていた蝶ネクタイを正して、桜は笑顔で俺の全身を眺める。

「はい、これで大丈夫です」

 満面の笑みで嬉しそうに。

「ん、サンキュ。桜」

 誤魔化すように感謝を述べる。
 やっぱり桜は細かいところまで気が利くな。遠坂じゃこうは行くまい。

『はっくしゅん!』

 ………遠坂。そんな気の利かせ方はどうかと思うぞ。

 そうこうして桜との会話に華を咲かせていると、しとやかに、しかし黙々と料理を食べていたライダーが口を開く。

「士郎。少しよろしいですか?」

 少し離れたところからライダーにこちらへ来いと、手招きされる。

「どうした、ライダー。何か食えないものでもあったか?」

「士郎。先ほどの私の視線、ちゃんと理解していましたか?」

 少しボリュームを下げた声で問いかけられる。
 え? 桜にちゃんとした言葉を投げかける代わりに見逃すとかなんとか感じたけど、まさか違った?

「いえ、それで合っていますが、貴方にはもう少し気の利いた言葉の一つもかけられないのですか? 例えばアサシンのような」

 え゛。小次郎のような言葉を俺が……? それはどう考えても無理だ。
 そりゃ俺も自分の語彙の少なさには呆れてるけど、あれはアイツが言うから華があるというか、滑稽にならないというか。あんな歯の浮くような台詞を俺なんかが言ったら笑われて終いだろう。

「その言葉を相手がどう受け取るかは士郎には関係がありません。
 それにサクラなら、士郎にならどんなキザな台詞を言われてもしっかりと受け止めることでしょう」

 ………その完璧なまでの主従愛には感嘆するが、こればっかりはどうしようもない。
 ていうかさ。まさかライダー、小次郎に言われた言葉、結構気に入ってる?

「な、何を言うんですか、士郎。
 私があのような暗殺者の言葉に心動かされる事などあるはずが無い。
 …………………士郎の勘違いでしょう」

 どう見ても気に入ってます。本当に………などとくだらないコトを考えずに。
 ははーん。自分の容姿にコンプレックスを抱いているライダーが、背の事に関せず褒められたもんだから、純粋に嬉しかったのか。なるほどなるほど。

「……何ですか、その目は」

「いや、ライダーも可愛いとこあるんだなって思って。
 よし、わかった。小次郎を呼んでこよう」

「……何をバカなことを。貴方は一体何を聞いていたのですかっ!
 誰がそんな事を頼みましたか? それよりもサクラにちゃんと言葉を……!」

「わたしがどうしたの?」

 ふと気がつけば、いつの間にか横には小首を傾げた桜がいた。まあヒソヒソと話してたり、突然大声を出せば気にならない方がおかしいか。

「サ、サクラ!? いえ、何でもありません。
 それより士郎、サクラに言うべきことがあるのではないですか?」

 背中を押され、一歩前へ踏み出すことを強要される。むう、こうなったら仕方ないか。

「………ああ。桜、聞いてくれ」

 真剣に、真っ直ぐに桜の目を見つめる。

「え、あの、先輩……?」

 桜は俺のその眼差しに何かを見つけたのか、ぐっと顎を引いて真摯に俺の言葉を待っている。ありがとう、桜。

「実は────…………」

 息を飲む気配がする。それに俺は意を決して、

「実はな、桜。ライダーは小次───………」

 ばひゅん、という擬音が聞こえそうなほどの速度でオレを連れ去り、ライダーが疾走する。脳天を鷲掴みにされた状態の俺は、よくもまあドレスでこんな速度を出せるもんだと、そんなどうでも良い感想を脳裏に浮かべていた。

「士郎………? 私をおちょくるのも大概にしなさい。
 さもなければ、実力行使に出ます」

 連れ去られた部屋の隅で胸倉を掴まれ、恐喝まがいの事をされる。……ヤバイ。確かに悪ノリが過ぎたようだ。

「………悪い。ちょっとやりすぎた。
 でもな、ライダー。俺にだって無理なことはあるんだ」

 事実をそのまま伝える。

「俺にできることは、自分が感じたことをそのまま相手に伝えることだけだ。
 自分を偽ってまで作り上げた台詞を口に出しても、虚しいだけじゃないか?」

 俺だって頑張ればもう少しキザな台詞が言えるかもしれない。だけどそれは、ツギハギだらけで俺の本心を覆い隠すだけだ。そんな言葉じゃ、きっと何も伝わらない。

「…………そう、ですね。すみませんでした、士郎」

 掴まれていた手が力無く放され、だらしなく垂れる。その落胆の色は隠せないほど濃い物だ。しかしライダーはサクラを思えばこその行動に出たのだ。誰が悪いわけでもない。

「でもさ。ライダーの言葉も一理あると俺は思うから。
 今は無理でも、いつかきっと、そんな台詞が本心から言えるように頑張るよ」

「士郎…………」

「先輩!? ライダー!?」

 駆けて来るのは桜。息を切らして、全力でこちらに向かって来る。

「先輩。一体何があったんですか!? ライダー! 貴女、先輩に何かしたの!?」

「いや、何でもないし、ライダーにも何もされてないよ。
 ちょっとライダーと話をしてただけだから」

 誤魔化そうと言葉を口にしても、そんなもので騙されてくれる桜じゃない。
 ………どうしたものか。

「そうですよ、サクラ。
 士郎がサクラがあまりにも綺麗すぎて直視できない、と相談してきたのです」

 いぃ!? ちょ、何言ってんだ!

「え、そんな、先輩が………そんな事を?」

 え、桜? そんなんで騙されてくれるのか?

「そうですよね、士郎?」

 にこやかに。それでいてここは話を合わせろという無言の圧力を感じる。
 ……ライダーさん。さっきの俺の言葉、ちゃんと理解してます? だがここは話を合わせるしかないか。

「あ、ああ。そうなんだよ、桜。
 いつも桜は綺麗だと思ってたけど、今日は特に綺麗だからな。ちょっとビックリしちゃってさ」

 アハハハハ、もうなるようになれ。
 だけど嘘は言っていないぞ。ただ、普段は恥ずかしくて言えないだけで。

「え、あ、う、ええと、その……わたし…」

 ぷしゅーっ、と音を立てるくらいに真っ赤に染まった桜がライダーにもたれかかるように倒れる。

「………嬉しさのあまり、気を失ったようですね」

「あはは、はは、…………」

 もう笑うしかない。

「……なるほど。サクラには直球ストレート、ド真ん中の台詞の方が効果的なようですね。
 これは私の認識が間違っていたことを認めるしかありませんか」

「ええと? ライダーさん?」

「士郎。やはり貴方の方が正しかったようです。
 これからも貴方は貴方のままでいてあげて下さい」

 微笑みを一つ残し、桜を抱えて消えていくライダー。………もう、さっぱりだ。  


Phase 4/小次郎+キャスター&宗一郎


 ………なんだか妙に疲れたな。とりあえず何か飲みたいところだ。近場にあったテーブルからグラスを手に取り、手近にあった飲み物を注ぐ。

 グラスを傾けつつ、今度は何処へ行こうかと思案していると目の端に不思議空間が映ってしまった。

「………なんだ、あれ」

 テーブルの一つを包み込む桃色の空間。その中心地に立つのは言うまでも無いが葛木とキャスターだ。尤も、その空間の支配者はキャスター一人なワケだが。ハート型の何かが浮かんでいるのを幻視出来てしまうのは、俺が疲れているせいではないだろう。

「あそこには近づかぬ方がいい。呪い殺されるぞ」

「小次郎」

 スーツを着ていても雅な装いを醸し出すアサシン・佐々木小次郎。

 呪い殺される、ね。確かに邪魔でもしようものなら高速神言で大魔術を瞬間発動、即座に五体バラバラか、いつかの喫茶店でテーブルを粗大ゴミに変えた不思議剣でメッタ刺しの刑に処されるだろう。小次郎が言うように、ネチネチと少しずつ少しずつ嬲り殺される可能性も否定できないな。……おぞましい。

 ────まあ、

「近づけって言われても断るけどな」

「はは、それがいい」

 グラス片手にくつくつと笑っている。もう出来上がってんじゃないのか、コイツ。

「おまえ一人なのか?」

「然り。こういう場では一人身というのは些か辛いな。
 そういう士郎も一人で居るようだが?」

「ああ。俺はなんていうか」

 こう、ブラブラと。色んなところに顔を出してる。

「ほほう。なるほど」

 何一人で納得してやがる。

「何。好かれる男は辛かろう、と思ってな。
 足しげく女性の元へと通い、機嫌を窺わねばならんのだろう?」

「俺はホストじゃねーっつーの!」

 どこからそんな現代情報仕入れてくるんだ。おまえの方がよっぽどホスト顔だろう。

「はは、気を悪くしたのなら許せ。そのような気はないのでな」

「………話は変わるけどさ。
 おまえいつもあの山門で何してるんだ?」

「ふむ……? これといって特にはないが。
 昼は無闇に現界することも叶わぬし、寝ているか、魔女をからかっているかだな」

 ……ああ。そういえばいつか柳洞寺に行った時、掃除しろって言うキャスターをからかって遊んでたっけ。力関係はキャスターの方が上だろうに、なんでコイツはこんなに強気なんだ?

「あの魔女めは何のかんの言っても寛大だからな。
 今の生活を脅かされぬ限り、大抵の事は水と流すだろうよ」

 なるほど。確かに今のキャスターの生活は彼女が心の底から望んだものだろう。それに比べれば小次郎のささやかな、からかいなど物の数ではない、と。
 ああー、はいはい。邪魔しないから、その固有結界っぽい桃色空間を広げるな、キャスター。それにしても………妙なところで妙な信頼関係を見たもんだ。

「夜は月を肴に酒を嗜むくらいか。夜ともなればあそこも静かなものでな。
 微かな囀りや木々の匂い、風の奏でる音を聴いているだけでも飽きないものよ」

 おおう、流石はミスター・花鳥風月。確かに小次郎には夜の闇と、月明かりを背負う感じの背景が似合いそうだ。
 だがしかし。

「酒なんかどっから持って来るんだ? 買いに行けないだろ。
 台所にでも行けばあるだろうけど、勝手に拝借なんかしたらキャスターに怒られないのか?」

「たまに宗一郎が差し入れを持って来てくれるからな。
 一人で飲む分にはそれで十分コト足りている」

 あの葛木が? へえ。
 一人月を肴に酒を飲む小次郎を幻視する。……うん。雅やかだが、それはそれで哀愁が漂っているような。よし、今度何か差し入れでも作って持っていってやるか。

「そうだ。夜と言えばな。
 たまに境内をうろつくのだが、その時、伽藍の奥から聞こえてくるのだ」

 げ。な、何が聞こえるって? まさか夜な夜なすすり泣く女性の声とか、非業の死を遂げた女性の悲鳴とか……?
 ありうる。前も何かそんなような話を一成が話したがってたし。

「はは、そのようなものではない。それに亡霊と言えばこの身はそれに近いのだ。
 さほど驚くほどのものではなかろう?」

 そういやアンタは真っ当な英霊じゃないんだったな。ま、それはいい。
 で? じゃあ一体何が聞こえてくるんだ?

「くく。何かと問われれば決まっておろう。あの魔女めの嬌せ───……」

「だぁーーーーーーー! アンタ一体何言ってんだァァァァァ!!」

 コイツ絶対酔ってるぞ! こんなところでそんなコト言うんじゃない! 桃色空間を至急確認! キャスターに聞こえてないだろうな!? くそっ、信頼関係があるなんて思った俺がバカだった! 差し入れも持っていってやるもんかっ!

「ははは。いや、悪い悪い。つい調子に乗ってしまった。
 酒も程好く回っているようだ。少し夜風に当たって来るとしよう。
 ではな、士郎。
 今宵は月の綺麗な良い夜だ。たまには月見も悪くないぞ?」

 手を上げて去っていくザ・侍。その動きだけ見れば優雅極まりないのだが。あんなコトの後じゃ素直に憧れられそうにない………。




Phase 5/慎二


 俺がさっきライダーに連れ去られた部屋の隅の対角、そこには背景にどんよりとした雲を背負い、壁に向かって体育座りをして絨毯に「の」の字を書いている人物が一人。

「……………何してんだ、慎二?」

「衛宮か……。ほっといてくれ。
 僕は今、心の傷を癒してるんだ。邪魔しないでくれよ」

「心の傷? 誰かに何か言われたのか?」

「誰も言わないから傷ついてるんだよ!」

「は?」

「No.2を読み返してみろ! 女性に指名された奴が感想を述べる?
 ふざけるな! 誰も僕だけ指名しなかったじゃないか!
 セイバーやキャスター、あの暴力女とか教会の娼婦はいいんだ。
 でも、せめて桜やライダーは僕を指名してくれてもいいだろぉぉぉぉ!」

 子供のように喚き散らす慎二。うーん? 俺、アーチャー、ランサー、アサシン、葛木、いつの間にか消えてた子ギルをノーカウントとしたら確かに慎二だけ名前を呼ばれてないな。

「………なんだかな。そんな事で悩んでたのか?」

「そ、そんなこと!? 良いよな、おまえは!
 あのイリヤスフィールを含めれば三人にも指名されやがって。
 No.2の僕の台詞なんかな、セイバーが倒れかけた時のヤジと葛木発見だけだぞ。
 No.2の僕の描写なんかな、最初の鏡の前でポーズを取ってるのだけだぞ。
 ……………何なんだ、この扱いの違い。
 主人公だからって何でもかんでも許されると思ってるおまえには用は無いんだ。
 ほら、しっしっ。
 僕は待ってるんだ。僕が名探偵となって名推理を披露する物語の完成をね」

 アヴァロンもかくやという遮断空間を作り上げ、より一層暗い影を背負う慎二。慎二の言う物語とやらが完成しないと絶対に出てきそうにないな。

 ………残念だが、慎二。このアインツベルン・シンドロームは元々ソレになる予定だったんだ。最初のタイトルがアインツベルン城殺人事件だったくらいだし。内容は第二回人気投票時のおまえの項に書かれていたようなヤツだけどな。つまりもし書かれていても、おまえは皆に華麗なまでにスルーされる名探偵になってたワケだ。
 そしてこの話もいつの間にか方向性を見失っているが、悲劇的な展開になることはないんだ、多分。だから慎二。おまえが活躍する場面や展開は永遠に来ないし、その待ち望む物語も日の目を浴びることはないんだ。
 そしてこれが一番重要なんだが……くっ………これを俺に言わせる気か、慎二。おまえがこの話に今なお出てるのは、最初の構想のただの名残りなんだよッッッッッ!!

 ここで、なんだってーーーーーーー!! という慎二の突っ込みが入るのが理想ではあるがそれでは慎二があまりにも不憫だから、この秘密は俺が墓まで持っていくことにしよう。

 もうかける言葉も無い。さらば慎二、────強くあれ。


Phase 6/バゼット&ランサー+カレン&子ギル


 なんだか現実と虚構の狭間を彷徨っていたような感覚が付き纏う。なんだろ、誰か悲しみに暮れる人物の背中を押してしまったような気分の悪さ。………ま、いいか。気のせいだろう。

 料理片手に食べ歩き。行儀は悪いが、ま、今日くらいは大目に見てほしい。そして未だ会話をしていない一グループを発見。………あんまり近寄りたくない組み合わせだな。

「あ、お兄さん」
「あん? 坊主?」

 にぱっと笑う英雄王(小)と、酒をあおり続ける光の御子。

「珍しい組み合わせだな」

 奥にいる二人を含めて。

「そうですか? ボクは誰とでもそれなりに付き合っているつもりですけど」

「あー、子供の時はそうかもな。なるべく大人に戻らないでくれ。
 その方が世界的にも俺的にも平和な時間が長続きしそうだから」

 それにあはは、と笑う子ギル。……結構本気なんだけどな、俺。

「ランサーは酒ばっかりか?」

「おうよ。この酒の美味いのなんのって。持って帰りたいくらいだぜ」

 だはは、と笑いながら一升瓶のラッパ飲み。知ってるか? 一気飲みは結構危ないんだぞ、特に最近。……サーヴァントにそんなものが適用されるかどうかは知らないが。

「坊主は飲まねえのか?」

「遠慮しとく。代わりにランサーが俺の分も飲んでくれ」

「連れねえな。酒は男の嗜みだぜ? ま、いいわ。そんならオマエが俺の分も食え。
 どうせ今日はあの嬢ちゃんの奢りなんだしよ。
 腹はちきれるまで食ったって、誰も文句は言わねえよ」

 そう言ってポポポイっと俺の皿に堆く積まれる色んな料理。いや、まあ、まだまだ食えそうだけどさ。自分の食う分くらい自分で取り分けるから。……結構世話焼きな男だな。
 積まれてしまったものは仕方がない。その山を崩しながら、目下一番気になることを聞いてみようか。

「なあ、アレ何やってんだ?」

「聞くな」
「聞かないで下さい」

 露骨に視線を逸らし、拒絶の言葉を口にするサーヴァント二人。こういうところで意見がバッチリ合うのは同じマスターを持つ故か?
 そんな二人が一体何からそんなに目を背けようとしているかと言うと。

「ふふふ」
「ふふふ」

 コレだ。何故か微笑みあうバゼットとカレン。なんだアレ。悪いもんでも食べたのか?

「カレン? そろそろ私の令呪を返してくれませんか?」

「あら、ミス・マクレミッツ。
 貴女のその左手を差し出せば返してあげると何度も言っているのに。
 一体貴女は今まで何を聞いていたのかしらね」

 いや、違う。あれは微笑みあってなどいない。それはさながら水面下で殺し合いを続けている、魔術協会と聖堂教会のように。上っ面は仲良く見えて、その実は「テメエのそれさっさと寄こせ、コノヤロウ」なスリリングでエキサイティングなファイティングを繰り広げているのだった……!

「それも何度も言っているでしょう。
 元々私のものだったモノを貴女が勝手に奪い去ったのではありませんか」

「私は落ちていたものを拾っただけよ。
 落し物の所有権を主張できるのは落とし主だけだわ」

「だから私がその落とし主だと言っているでしょうっ!」

「だからその時の状況を包み隠さず全て話しなさいと言っているのです。
 ああ、でも既に随分な期間が過ぎているから、これは正式に教会の所有物になっているわね」

「なんですかっ、その適当に作り上げた理論は!
 どうしても渡さないというのなら、実力行使に出ます!」

「結局最後は暴力に頼るのね。口で勝てないからってすぐ腕力に頼るのは猿と同じよ?
 もう一つ言わせてもらえば、貴女の肉体を助けてあげたのは誰だったかしらね」

「ぐっ…………………!」

 それを言われてしまえばバゼットは黙るしかない。事実、カレンがあの時現れなければバゼットはとうの昔に死んでいたんだから。
 それを抜きにしてもこの二人の話は平行線だ。どちらも両方欲しいのだから、絶対に譲らない。カレンにとってみればランサーはどうでも良さそうだが、バゼットが左手を譲らない以上、こちらを差し出す理由も無い。
 ………不毛だ。妥協できない議論ほど不毛なものはない。

「アイツら、あれ一体いつになったら飽きるんだろうな」

「飽きないんじゃないですかね。
 顔突き合わせる度にやってますから、アレ」

 ホント、不毛だ。

「なんだかなあ……。
 俺はてっきり、さっきのランサーとバゼットの様子から二人で居ると思ってたのに。
 どこをどう間違ったら、この組み合わせになってあんなコトになるんだ?」

「おう、良くぞ聞いてくれた坊主。
 これが聞くも涙、語るも涙の血湧き肉踊る愛憎劇なんだわ」

 それはどこか、いや全部間違ってると思うぞ。絶対酔ってるだろ、アンタ。

 語りだしたランサーを余所に子ギルに話を聞けば、ランサーとバゼットが良いカンジになってるところにカレンが乱入して行ったそうだ。「私のサーヴァントと何をしているのですか?」といった感じで。
 カレンよ……やっぱりアンタにはエアリード機能の搭載が不可欠のようだ。ああ、いやダメか。アンタは空気を読んだ上で壊しに行くタイプだもんな。性質悪すぎ。

 ………とりあえずここに平穏はない。変に巻き込まれる前に退散しよう。

「じゃ、そういうことで。後は二人で頑張ってくれ」

「あ、おい逃げるんじゃねぇ!」
「ずるいですよ、お兄さん!」

 シュタッと手を掲げ、囀る声を背中に駆けて行く。ハハハ、さらばランサー&子ギル! 俺はこれ以上厄介ごとに巻き込まれるのはゴメンだぜ!


Phase 7/イリヤ&セラ&リズ


「あー、まったく。どいつもこいつも色が強すぎなんじゃないのか」

 どこに顔を出しても、ゆっくりと食事のできそうな場所が無い。複数人がいるところに行けば必ず厄介ごとが巻き起こる。さながら、パレットの上で溶け合わない絵の具のように。
 ああ、遠坂やアーチャー、桜とライダーみたいな似た色を持つ主従はやっぱりそこそこ仲良さげだけど。
 でもそこに俺が混ざるとなあ……なんかかんか起こるんだ。そんな主人公補正はいらないぞ。ここはやはり一人で食べるのが確実か?

「おにぃーちゃん!」

「うおっ!?」

 後ろからいきなり抱きつかれる感触。腰周りにある手、それとこの声を考慮すれば、それが誰かなどすぐ判ろう。というより、俺を兄と呼ぶのは彼女しかいない。

「おう、イリヤ。元気にしてたか?」

「もうっ、ずっと待ってたのに!
 シロウったらあっちにふらふら、こっちにふらふらで中々私のところに来ないんだもの。
 仕方ないから、私の方から来てあげたわ!」

「ありゃ。そりゃ悪いことしたな。ごめん、イリヤ」

 素直に謝るべきところでは謝る。これが一番なり。

「うん、許してあげる!!」

 元気いっぱい、めいっぱい。太陽さえ眩むほどの輝かしい笑顔の妹君。その顔を見れば、さっきまでの疲れも吹っ飛ぶってなもんだ。

「ところでシロウ。ちゃんと楽しんでる?」

「ああ。色んな連中と話してみたり、美味い料理に舌鼓を打ったり。
 十分楽しんでるよ。
 それに今まで見たことの無い料理もたくさんあるからな。
 眺めてるだけでもいっそ楽しいかもしれん。
 そういうイリヤは楽しんでるのか?」

 こういう話になると料理方面に話が行ってしまう自分の主夫根性がイヤになるがそれはそれ、これはこれ。
 それにイリヤも主催者だからって楽しんじゃいけないなんてルールはないんだ。やっぱり喜びは皆で分かち合った方が楽しいに決まってるからな。

「ええ。こういうお客様をもてなす大きなパーティって、久しぶりだから楽しいわ。
 主催者としてのやりがいもあるしね。
 あ、でも………シロウと二人っきりのパーティっていうのもいいかも」

 唐突に太陽の笑みから日食の笑みへと変わるイリヤ。
 イリヤさん? なんですか、その笑顔は。また何か良からぬコトでも思いついちゃったんですか?

「実はね、シロウ。個室もちゃんと用意してあるのよ」

 い………そ、それが何だと言うんでしょうか。

「だから……二人で抜け出さない?」

 いやいやいやいや。そんな合コンから女の子を連れ出そうとする男みたいなコトは言っちゃダメです。お兄ちゃんはイリヤをそんな子に育てた覚えはありませんよ?
 それにイリヤはこのパーティの主催者じゃないか。そんな重要人物が抜け出しちゃ色々とマズイだろう!?

「大丈夫よ。セラとリズがいるもの。
 あの二人なら私がいなくてもちゃんと他のお客様を心ゆくまでもてなしてくれるわ。
 だから…………シロウ」

 う、いや、あの、その。迫ってくるイリヤの唇が、何時に無く蟲惑的に見える。
 ぐっ……マズイ。このまま暗示でもかけられたらコロリといっちまいそうだ。

「シロウ……………」

「イ、イリヤ………」

 お互いの距離が限りなくゼロになる。マジでキスする五秒前。

「そこまでです、エミヤ様」

「うぅぉぉおおおぉ!?」

 近づく顔の横合いからにゅっと首を出すセラ。やめてくれ、それはかなり心臓に悪い。

「エミヤ様。せっかくお嬢様が招待して下さったのです。
 こういう場でくらいはケジメというものをつけてはどうでしょうか。
 まったく、すぐにお嬢様に手を出すのは如何なものかと」

 ……ひどい言われようだ。俺が悪くないってワケじゃないけど、そこまで言うことはないんじゃないか? 相変わらずセラは俺に対して手厳しい。あの眼光も復活しているし。

「もうっ! なんで邪魔するの、セラ!」

「お嬢様を思えばこそです。
 このような不逞の輩に近づくことはお嬢様に百害あって一利なしです」

「………なんでセラはそんなにシロウを毛嫌いするのよ。
 まさか愛情の裏返しとか言わないでしょうね」

 いやいやいやいや。それはありえない。月と地球が衝突するくらいありえないから。

「まさか、そのような事は断じてありません」

「うそ。セラはシロウが好き」

「リ、リリリリリ、リーゼリット!?」

 セラの背後から現れるもう一人のメイド、リズ。それよりもなんだ、セラが俺を好き? ハハハ、リズも冗談なんて言うんだな。

「セラはシロウが好き。だっていつも見てるから」

「な、何を言うのです! リーゼリット!! 私がエミヤ様を見ているのは監視の為です!
 お嬢様に良からぬ思いを抱くこの男を見張る為に視界に収めているだけです!」

 ははは、アンタいつもそんな事してたのか。口数多く攻め立てるセラに対し、リズは一言二言で的確に攻撃を繰り返していく。さながらボクシングのジャブを多く繰り出すタイプの選手とストレート一発KO狙いの選手のような様相だ。
 とりあえず余計な揉め事はごめんなので、距離を取って生暖かく見守るとしよう。

「ごめんね、シロウ。セラに悪気はないんだけど……」

「ああ、それは解ってる。
 セラはイリヤの為を思えばこその行動なんだろうしな」

 アインツベルンを裏切った切嗣の息子、イリヤを一人にした切嗣の息子。それだけで彼女らが俺を恨む理由には十分事足りている。
 俺はそれを否定する気はないし、反論するつもりもない。全て受け入れるつもりだ。だって俺は、切嗣の息子なんだから。

 とりあえず、まず最初に出来そうな償いはイリヤと一緒に居てやること。その寂しさを、少しでも紛らわせられるように。築かれなかった思い出を、一緒に築いていけるように。

「イリヤ」

「何?」

 料理を口にしながら小首を傾げるイリヤ。

「さっきの二人きりになるって話だけど」

「あ、シロウもやっとその気になった?」

 ぱぁっと顔が明るくなる。

「いや、それはできない。せっかく皆でパーティをしようって決めたんだ。
 だからここで一緒に楽しもう。俺はずっとイリヤの側にいるからさ」

 それにむーっとか、うーっとかいった感じで口を尖らせるイリヤ。しかしそれも僅かの逡巡のあと、いつもの笑顔に変わっていた。

「………シロウがそういうなら仕方ないわね。
 でもシロウが居てくれるなら、そこがどこだって楽しいと思うし」

 満面の笑み。
 ああ、その笑顔を絶やさないようにできるのなら。

 俺が今、ここにいる意味もあるんだろう。









後書きと解説

あれ、これイリヤSSだったっけ?
前回みたいなギャグオチではなく、綺麗に纏めようと頑張ってみました。

これで一応カタチにはなったと思うのですが、まだ色々書けそうなこともあるので
前中後の三編からナンバリングに変更しました。ご了承下さい。

裏話的な言い訳。
慎二の話はマジ話です。最初はそんな感じで考えていたんですが、気がつけばこんな感じに。
憐れなり、間桐慎二。
日本語タイトルが変わって英語タイトルも変わって内容も変わって。
なんだそりゃ。見切り発車にも程があるぞ、自分。

小次郎がアレなのは仕様です。
某SSを読んでから小次郎がギャグ要員にしか見えなくなったワナ。
それをインスパイアでリスペクトな感じです。
真面目な小次郎が好きな人には深くお詫び申し上げます。



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