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リバースリバース









 ふんふん、と鼻歌を歌いながら、今日の晩飯は何にしようかと商店街を練り歩く。

「えーっと……昨日は桜の番で洋食だったから、今日は和食の魚系で攻めるか」

 パッと思いついたメインディッシュから副菜も次々に決めていく。後はお買い得品があれば、その都度調整して行こう。と、心に決め、メインの魚を買いに行こうと踵を回した時。

「ざ、雑種………………」

「うぉお!?」

 振り向いた先。そこには人を雑種呼ばわりする金ピカの王様、ギルガメッシュの姿があった。
 またか。またおまえは俺に災厄を届けに来やがったのか。

 しかし、よくよくギルガメッシュの姿を見れば、かなりおかしい。具体的には目は虚ろで焦点があっていないし、肩はどうしようもなく脱力しており、背景にガーン、といった感じの効果音を背負っている。立っているのも不思議なくらいの衰弱加減だった。

 ………………なんだ? コイツをここまで絶望に染める存在がこの世に二つとあったのか? 泰山の麻婆豆腐くらいしか思いつかんが、あの特有の刺激臭はしない。
 むむ、考えたところでわかる訳もないか。

「ギルガメッシュ……? どうしたんだ、何かおかしいぞ」

「ざ、雑種……大変なのだ」

 脱力しながらも、がしりと俺の肩を掴むギルガメッシュの腕。

「何が大変なんだ?」

 ちぐはぐ、というか主語抜きで話されて理解しろって方が無理だ。俺に読心術の心得はないぞ。

「セ、セイバーが…………」

「セイバー? セイバーがどうかしたのか」

 セイバーは確か俺が家を出る時はもういなかったな。
 最近は一人で外に出掛ける事が多くなってるような気がしたけど、まさかセイバーが交通事故とか行方不明なんて事はありえまい。あれで礼節は弁えてるヤツだから、道端に倒れてるなんてこともないだろう。
 で? セイバーがどうしたって? さっさと核心を話さないと俺は行くぞ。

「セイバーが…………我の求婚に応じたのだ」

「セイバーが? へぇー、セイバーがアンタの求婚に……きゅう、こん?」

 きゅうこん。キュウコン。球根?………………………………求婚。

 きゅうこん 【求婚】
 結婚を申し込むこと。プロポーズ。

「……………………ふむ」

 セイバーがねえ。ギルガメッシュの求婚に応じた?
 ふーん、へえー、ほーう、ははは、

「って、な、なんでさああああああああああああああああああああああああああ!?」






リバースリバース/Reverse & Rebirth




/1


 ランサーやライダーさえも今の俺の脚力なら抜きされるだろう。というくらいの速度を持って至急我が家へと帰還している所存だ。
 セイバーがギルガメッシュの求婚に応じたという信じがたい事実。それを一刻も早く確認しなければならない。というか、あれほど毛嫌いしてたセイバーが何故急に? どういう心境の変化が? 誰の仕業だ? またギルガメッシュの妄想か? などと、次から次へと湧き出る疑問を振り払い超特急で駆け抜ける。
 今日ばかりはご近所の目もあってないようなものだ。エマージェンシーコールが鳴り止まないのだから。

「セイバァァァァァァァァァ!」

 玄関を開け放ち、靴を脱ぎ捨て居間に駆ける。

「セイバー!」

 襖をぶち破る勢いで開け、セイバーの姿を探す。
 居間にはセイバー、遠坂、桜、ライダー、アーチャーの姿まであった。

「セイバー! どういうことだ!?」

 正座し、いつも通りの姿勢でお茶を飲む彼女に問い詰める。
 それに彼女は、

「ギルガメッシュから聞いたのですね。ええ、私は彼の求婚を受け入れました」

「な、────んで……」

 バカな…………ありえない。何故だ、何故セイバーが………?
 ぐるぐると回る思考は、ネズミが回す滑車のように回り続ける。

「何故、ですか? 確かに以前の私は彼を嫌っていました。
 しかし何度も求婚されるうちに彼の想いは本物なのだと、知ったのです」

「セイバー、アンタ頭大丈夫? どこか打ったんじゃないの?」

「凛、私はそのような無様な真似はしない。
 頭も正常、いつも通りの私の思考が出来ていると思いますが」

「セイバー。
 私は貴女の事にとやかく言うつもりはありませんが、あの男はどうかと思いますよ。
 もう少しちゃんと考えてからの方がいいと思いますが」

「ライダーの言う通りです!
 あの金ピカさんが嫌いってわけじゃないですけど……」

「桜にライダー。確かに二人が彼を嫌うのも解ります。今までの彼の行動を省みればそれも当然と言えるでしょう。
 しかし、彼の想いだけは間違いなく本物だ。それは信じて欲しい」

 見つめる青緑の瞳には濁りはなく、ただ輝きを湛えている。まさに、そこに疑いの余地などないと言わんが如く。
 セイバー……何か悪いものでも食べたのか? そうだ、俺の料理が気に入らないからちょっと嫌がらせしようと思ったんだよな? そうだよな、そうだと、言ってくれ……。

「私からも訊こう……。
 セイバー、君は本当にそれでいいのだな?」

 アーチャーが問う。珍しく我が家に居るのはまあいいが、ちょっと憔悴しているような顔をしてるのは……ああ、そうか。今のおまえは俺と同じ気持ちなんだな。

「ええ、私はギルガメッシュと共に生きます。
 シロウに凛、桜やライダー、アーチャーたちには私たちの事を祝福して欲しい」

 終わった。その言葉で、俺の中の何かが崩れ落ちた。





/2


『衛宮邸緊急対策本部』

 そう銘打たれた居間にセイバーを除く全員が未だ居座る。
 セイバーはギルガメッシュに会いに行くと言って早々に我が家を後にした。

「で、どういうことなんだ、遠坂。
 あれは本当に、セイバーの本心からの言葉なのか?」

 言ってから、あの迷いない瞳が脳裏に浮かぶ。
 あの瞳は、間違いなく本物だったと感じる自分がいる。

「…………なんとも言えないわね。とりあえず、皆で情報を共有しましょ。
 私はセイバーが出て行って帰ってきた後の事を話すから、士郎は金ピカから聞いたことを教えて」

 それにコクリと頷く。

 あの言葉がセイバーの本当の本心なら俺が何か言うことはもうない。だけど、この突然の心変わりは明らかにおかしい。だって昨日まではセイバーはセイバーだったんだから。

 遠坂曰く、セイバーが出て行く前はいつも通りであったらしい。それなのに、帰ってきたら今の状態で『ギルガメッシュの求婚に応じました』などと言ったようだ。つまり、その間に何かがあった、と考えるのが妥当だろう。
 そして俺はギルガメッシュの驚愕具合を話す。

「…………士郎の話から考えると、金ピカが何かしたってわけじゃなさそうね」

 冷静になった今なら俺にも解る。あのギルガメッシュの様子は驚きを通り越していた。
 つまり受け入れられまいと思っていながらもいつも通りに求婚してみたら、OKサインが帰ってきて“我もビックリ”状態だったのだろう。
 …………自分の求婚が受け入れられないっていう自覚はあったんだな、ギルガメッシュ。

「やっぱりセイバーが出て行って、帰ってくるまでの間、ものの二時間の間に何かがあった、そう考えるべきね」

 だが解らない。
 その二時間の間に何があったって言うんだ?

「それはまだ解らないわ。
 念の為に確認しておくけど、外に出たセイバーを見かけた人、いる?」

 俺はセイバーがいなくなるまではここで家事をしていたから外に出ていたセイバーは知らない。そしておそらく俺と入れ違いでセイバーが帰って来たんだろうから、俺は全く知らないと言っていい。

「わたしはずっとここにいたから、外のセイバーは知らないわ」

「わたしも同じです。ずっと姉さんと一緒にいましたから」

「私は自室で読書を」

「アーチャー、おまえは?」

「…………凛に呼び出される前は確かに外にいた。セイバーも見かけた」

 ……………………! で? どこで見かけて、どんな様子だったんだ!? 早く言え!

「港だ。今日は絶好の釣り日和だったのでな。ランサー相手にフィッシュを繰り返していたのだ。ああ、珍しく英雄王の姿はなかったが。
 そして私たちが釣りに興じている所にセイバーがふらりと顔を出したというわけだ」

「で、その時のセイバーの様子はどうだったわけ?」

「普段と変わらんよ。違いといえば大判焼きの袋を持っていただけだ。
 食べ歩きは行儀が悪い、と注意はしたが、当然だと言い切っていたしな。
 何、いつもと変わらないセイバーであった。
 それが…………凛に呼び出される一時間ほど前のことか」

 遠坂がアーチャーを呼び出したのセイバーがあの発言を残した直後。ならセイバーに何か異変があったとするならアーチャーに会った後から家に帰るまでの一時間ってことか。

「うーん…………これ以上の推測は今の状況じゃ無理ね。こうなったら足で探しましょう。
 私とアーチャーは新都、桜とライダーは深山町、士郎は臨機応変に直感で好きなところへ行ってみて。
 主に聖杯戦争の関係者に当たるのよ。セイバーに何か出来るのは魔術関連の人物に間違いないんだから」







/3


 足取りは重く、どこへ行くかも定かではない。ふらふらと、それでも勝手に動く足に従いながら深山町を行く。

「しっかりしろ、衛宮士郎。あれはセイバーの本心じゃないんだ。なら俺がセイバーを助けないとダメだろ。望まない婚姻なんか、させてたまるかってんだ!」

 顔を思い切り叩く。それで気合が入り、思考もクリアになった。良し、行こう。
 セイバーが誰かに何かをされたのは間違いない……と思う。セイバーをどうこう出来る人物なんて数少ないだろうが…………。

 はた、と足を止め空を見上げる。そこは天へと続かんとするほどに長い階段。その奥には異界への入り口を思わせる山門があった。
 そう────足に従い、辿り着いたのは柳洞寺。

「…………そうか。キャスターなら」

 アイツならセイバーに何か出来るだろうし、もしそうじゃなくても何か手掛かりが掴めるかもしれない。

 石段に足をかけ、長い長い斜面を登る。

「待たれよ、セイバーのマスター」

 山門にかかろうという頃、不意に声をかけられた。

「小次郎か」

 雅やかな陣羽織を羽織り、山門に佇む侍、アサシンのサーヴァント・佐々木小次郎。

「然り。しかし、どうしたセイバーのマスター。
 顔にいつもの覇気がないぞ。あまりの焦燥加減につい声をかけたほどだ」

 気合は入れたつもりだったけど、まだちょっと立ち直れてない部分があったみたいだ。
 まあ、丁度良い。小次郎にも訊ける事は訊いておくか。

「なあ、上にキャスターはいるのか?」

「魔女か? いや、今は宗一郎と共に出掛けているが。
 なんだ、あの女狐に用であったか」

「いや、アンタでもいい。ちょっと教えて欲しい事があるんだ」

 事の一部始終を小次郎に話す。
 すると、

「ああ、セイバーなら来たぞ」

「──────! いつだ!? 何か変じゃなかったか!?」

「そうだな…………時刻はかなり前だったと記憶しているが。
 特に変わった様子はなかったと思える。
 何用で立ち寄ったかは知らぬが大判焼きを持って去って行ったぞ」

「…………大判焼き?」

 確かアーチャーもそんなことを言っていた。
 てことはアーチャーがいた港に立ち寄ったのはここを訪れた後ってことか?

「あの魔女めが何を思ったのか知らぬが、私に差し入れと称して大判焼きを持ってきたのだ。しかも袋に入りきらぬほど詰めてな。
 流石にこれは食べきれまいと思っていたのだが、そこに都合よくセイバーが現れたのだ」

「それでそれをセイバーにあげたのか?」

「然り。あまりにも大判焼きを見つめるその瞳が澄んでいたのでな。つい袋ごとくれてやってしまった」

 はは、と笑う侍。

 大判焼き…………ねえ。何か関係があるのか?

「セイバーはここで食べていったのか?」

「いや、袋を嬉しそうに抱え、礼を言ってすぐに去った。
 その後のことは私では預かり知らん。この場より動けないのだからな」

「…………そっか。サンキュ、小次郎。今度大判焼きの代わりに何か持ってくるよ」

「ほう、それは楽しみにしておくとしよう」







「…………大判焼き、か」

 柳洞寺を後にし、商店街を歩く。
 まだ全然材料が足りないな。もっと核心を突くような言が欲しいところなんだけど。

 うーん、と唸りながらふと、視線を前に向ければ、

「む、雑種ではないか」

 満面の笑みで。さっきのおまえはどこに行ったのかと問いたくなるほど爽やかに微笑むギルガメッシュがいた。

「アンタ、セイバーはどうしたんだ?」

「うむ、つい先ほど別れたところだ。
 ははは、まさかセイバーがあのような事を言うとはなあ」

 緩みっぱなしの頬を抑えることなく、過去に迷い込む英雄王。
 …………なんか、ムカつく。

「おお、そうだ。貴様も招待してやらねばな。
 我のセイバーをこれまで養ってきたのだ、スピーチをさせてやっても構わんぞ」

 招待? スピーチ? 何をいってやがるか、この慢心王は。

「ふはははは、解らぬか雑種。
 我と騎士王の挙式に招待してやろうと言うのだ」

「────────!?」

 な、な、ななななななななな、なんですとーっ!?
 早っ! 展開が早すぎるぞ!

「先刻セイバーから言って来たのだ。
 いや、流石の我もあれには驚いたが……何、我の努力がようやく報われたのだと思えば、当然のことと言える」

 ヒャッホーっと喜ぶギルガメッシュ。
 突然スキップをしそうなほど、体全体から喜びが滲み出ている。

「なあ、おまえはおかしいとか思わないのか?
 昨日までは完全に拒絶されてたのに、今日になっていきなり承諾したんだぞ?
 不審に思ったり、怪しんだりしないのか?」

「何を言う、小僧。我の愛をセイバーが認め、受け入れた。
 それ以上でも以下でもあるまい?」

 ダメだ。コイツのポジティブシンキングはどこまでも我道を行っている。

「………で、その挙式ってのはいつだ」

「明日だ」

 うおおおおおおおおい!?

「早っ、早すぎるってそれ! なに考えてんだ、おまえ!」

「我の案ではない、セイバーの案だ。会場は貴様の屋敷に決定している。我はあの教会が好かぬし、セイバーも雑種の屋敷で執り行いたいと申したのでな。準備は貴様に任せよう。ああ、金の心配はいらん、我が持つからな」

 …………ついていけない。何だ、これ。何だってこんな急ピッチで物事が進んでるんだ?

「ではな、雑種。我は明日の準備で忙しいのだ」

 わははー、と去っていく黄金の王。もう追う気力もありゃしない…………。





/4


 とりあえず自宅に戻った。遠坂たちも何か情報を仕入れているかもしれないし、セイバーにまた問いたださなければならない。

「あ、士郎。どうだった? 何か有益な情報見つかった?」

「いや…………、これと言ったことはなかった。
 遠坂たちはどうだったんだ?」

 居間には既に俺以外のみんなが揃っていた。またもやセイバーの姿だけ無いが。

「私とアーチャーは新都の教会でカレンとランサーに話を訊いてみたけど、ランサーは違うわね。アーチャーと釣りしてたのは本当だったし、セイバーとギルガメッシュをくっつける事に利益を感じたりもしないと思うし。
 カレンは怪しいかと思ったんだけど、今回の事には関与してないみたいだったわ。確信はないけどね」

 ああ、確かにカレンなら何かしらやりそうだが、例え何かしたとしても白を切り通すだろう。相手の反応を見て楽しむタイプだから充分に楽しむまでは種を明かさないか。

「桜の方はどうだった?」

「あ、はい。私とライダーは海浜公園でバゼットさんに会ったんですけど……」

「けど……?」

「ええと、セイバーさんが公園で大判焼きを食べているところを見かけただけらしいです。
 時間的にはアーチャーさんたちと会った後だと、思います」

 また大判焼き。なんだ? この謎の鍵はやっぱりこれなのか?

「セイバーの様子でどこかおかしいところがあったとか、言ってなかった?」

「いえ、チラリと目の端に止まった程度みたいだったので、詳しくは……」

 うーむ。謎は解けずに、深まるばかり。
 だがとりあえず、これは言っておかねばならないか。

「セイバーはどこにいるんだ?」

「ん、道場でいつもみたく瞑想してると思うけど」

「そうか。一つだけ言わないといけないことがあるんだ、聞いてくれ。
 さっきギルガメッシュから聞いたんだけどさ、実は……」







「………………」

 沈黙。

 セイバーがここで明日、ギルガメッシュとの挙式をあげる旨を伝えると、皆同じように黙り込んだ。

「セイバー………本気みたいね。
 そこにどんな裏があるかはわからないけど、本気になってるのはわかるわ」

 問題はその本気が本心かどうか、ってことだ。

「うーん………でもねえ、これといった変革をもたらす要因もないし、ただ単にセイバーの気変わりなんじゃないの?」

「……本気で言ってるのか、遠坂」

「ええ。冗談言うほどボケてないわよ、わたし。
 恋なんてものはね、ひょんな出来事で一変するものなのよ、きっと」

「………………」

 本当に、そうなのか? もしそうなら俺にセイバーを止める権利は無い。セイバーが心からギルガメッシュを望むなら、俺は────

「私は本気です、シロウ」

「セイバー……………」

 居間の入り口に立つセイバー。

「私は本気です。心の底から彼と共に在りたいと思っています。
 ですからシロウたちには……祝福されたい」

 …………そうか。セイバーがそういうなら、きっとそうなんだろう。なら俺に彼女を咎める資格は無い。ただ俺は、笑って彼女の門出を祝ってあげよう。





/5


 ────そして翌日。

 あの後から進められた挙式の準備は今なお続けられ、衛宮邸の庭に着々と準備が成されていっている。空は快晴、二人を祝福するように太陽は輝き続ける。

 表面上は俺の心も明るさを見せているだろう。ただ、その奥底、そこでまだ何か煮え切らないものが燻っているような感じがする。
 ああ、バカか俺は。セイバーはギルガメッシュを選んだんだ。俺に口を出す権利はもう、無いだろう? いい加減認めろ。

 そうこうしている間に準備は整い、集められた関係者各位は新郎新婦の入場を待つ。ちなみに神父役はカレンだ。あれでも一応教会に属するものなんだし、ブチ壊すなんてことはないだろう。

「それにしても驚いたわ。セイバーがあの男とくっつくなんて。
 私はてっきり可能性としては坊やくらいしかいないと思っていたのに」

 隣にいたキャスターが不意に口を開く。

「俺にもわからないよ。昨日突然言い出して、今日いきなりこうなったんだから」

「でもいいわねー、結婚式。私もいつか宗一郎様と…………」

 トリップする挙式をしていない若奥様を横目に、入場してくるギルガメッシュとセイバーを見つめる。…………悔しいがお似合いだ、あの二人は。

「ああ、そういえば坊や。昨日あの掃除もしない昼行灯と会って話したらしいわね。何か変じゃなかったかしら」

「? 何かって、何だ?」

「こう、視線に艶っぽさがあったり、ぼうっとした感じだったり、いきなり愛の言葉を囁くみたいな」

「ゲッ、なんだそれ。小次郎ってそういう趣味なのか?」

 これは予期せぬ新事実だ、まさか小次郎にそっち系の趣味があったとは。

「違います。昨日あの芋侍に実験薬を混ぜた大判焼きを食べさせたんだけど、どうにも効果がないみたいでね。すぐに切れたのかと思って」

「──────」

 ちょっと、待て。大判焼き? おい、それってまさか………。

「? ええ、袋いっぱいに大判焼きを詰め込んで渡したわ。
 宗一郎様と帰ってきた時に見かけたけど、持ってなかったから食べたとは思うんだけど」

「…………ちなみに訊くけど。その実験薬ってのは何だ」

「食べた後に話しかけられた相手に惚れる薬だけど?」

 犯人はおまえかァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!

「ど、どうしたの坊や。そんな怖い顔して」

 やっと解った。
 セイバーは小次郎から大判焼きを受け取り、それを食べた。その直後、ギルガメッシュが求婚に現れ、それに応じたってところか。

「キャスター、その薬の解毒剤はどこだ。または解呪する方法を言え」

 今の俺は、俺を殺そうとしたアーチャー以上の狂気に塗れている事だろう。
 キャスターを咎めるのは後だ。そうと解れば一刻も早くセイバーを止めないと……!

「ちょ、坊や………。解毒剤は柳洞寺にあるけど……」

 くっ────今から柳洞寺に走ったって間に合わない。挙式が終わってからじゃ全てが遅すぎる。

「えーっと、ああ、もう一つ解呪する方法があるにはあるけど……」

「言え、早くっ!」

「今日の坊や、変よ?
 ……解ったから、そんなに顔を近づけないで頂戴。で、解呪の方法だけれど────」







「ギルガメッシュ。汝、健やかなる時も病める時も、セイバーを愛し、敬い、慰め、助け、その命の限り、固く節操を守らんことを誓いますか」

「うむ、誓おう」

「セイバー。汝、健やかなる時も病める時も、ギルガメッシュを愛し、敬い、慰め、助け、その命の限り、固く節操を守らんことを誓いますか」

「はい、ちか─────」



「その誓い、待ったァァァァァァァァァァ!!」



「シ、シロウ!?」

 驚愕に目を見開くセイバーと、邪魔をする俺に射殺すほどの視線を向けるギルガメッシュ。

「雑種、我等の挙式を邪魔するとは何事か。万死に値するぞ」

「そうです、シロウ。
 貴方は昨日言ったではないですか。私たちを祝福してくれると」

 そうじゃない。そうじゃないんだ、セイバー。
 今のおまえの思いは、ニセモノなんだ。それは、おまえの本心なんかじゃない。ホンモノの気持ちなんかじゃ決してないんだ。

 歩く。
 二人の通った赤い道を独り、歩く。

「止まれ、雑種。それ以上近づけば命はないと思え」

 現れる無数の宝具。ソレから視線を逸らし、遠坂とアーチャーを見る。既に二人には伝えてあるから、ギルガメッシュの相手を任せる。

「フッ、衛宮士郎は狙わせんぞ、英雄王」
「士郎、早くっ!」

「ぬっ…………! 貴様ら、我の邪魔をする気か!」

 対峙する金と赤。
 それを横目にセイバーの元へ駆ける。

「シロウ…………何故ですか? 何故、邪魔をするのですか!」

「──────」

 それに答える声はもうない。
 セイバーの顔にかかるベールを外し、素顔を露わにさせる。

「シ、シロウ…………? や、やめっ」

 そのままセイバーの肩に手を置き、俺は─────




 俺は─────セイバーのアホ毛を掴んだ。




「─────なに?」

 それは、誰の言葉か。

 途端、庭の空気が急激に冷え、寒冷地に赴いたような悪寒が全身を駆け抜ける。
 そして響くは、エクスカリバーの解放音。

 よしっ! これからの自分の身が心配だが、作戦は成功だっ!

 ギィィィン、という解放音を以って撃ち放たれる最強の聖剣。
 そして成す術のない下々の者はただ吹き飛ばされるのであった…………!

「あー……いててっ………」

 俺を薙ぎ払ったセイバーは、放つ以前と同じ格好のまま、片手に聖剣を携え微動だにしていない。
 だがその風貌は異なり、ぴょこりと出ていたクセ毛は引っ込み、なんとなく色素が落ちたような感じ、いわゆる黒セイバー化していた。

「な、ななななな、これが……騎士王だとっ!?」

 驚愕に打ち震えるギルガメッシュを余所にセイバーは己が格好をじいっと見つめている。

「シロウ」

「は、はいっ」

 鋼のような剣気。押し殺されている殺気。纏うものが違えばここまで変わるのかと驚くものの、何故か反射的に上擦った声が喉から零れる。

「何故、私はこのような格好をしている」

「そ、それはですね、そこのギルガメッシュがセイバーと婚姻を結ぼうと……」

 放たれていた殺気が収縮、いや、ギルガメッシュにのみ向けられていく。

「そなたが、私と婚姻?」

 見下すような視線がギルガメッシュに突き刺さり、ずずっと後退するギルガメッシュ。

「そ、そうだぞ、セイバー。おまえは我の求婚を受け入れ、こうして今婚姻を行っている最中なのだ。己の格好と周りを見ればわか────」

「────黙れ、下郎。私はそなたなどに操を立てたりなどしておらぬ。
 妄想も大概にしておけよ」

 またも響く解放音。余程腹に据えかねているとお見受けする。

「な、ななななななななな、ま、待て、待つのだ、騎士王!
 何故だ!? 我が何をしたと言うのだ!?」

 それを完全に無視するセイバー。

 ああ、英雄王。今回おまえはまったく悪くない。何が悪かったと言えば、ただタイミングが悪かっただけだ。
 だが物事には締めというものが必要である。よって、おまえは無実の罪でセイバーに吹き飛ばされるのだ……!

「なぜだあーーーーーーーーーーーーーーーー!? 我が何をしたというのだあああああああああああああああああああああああああああ────…………」

 エコーを残し遥か彼方へと消えていったギルガメッシュ。
 さらば英雄王、フォ〜エヴァ〜。





/6


 で、何故俺がセイバーのクセ毛を掴んだかというと。

 キャスターの言う解呪の方法、それがこれであったからだ。表層に出ている人格を完全に眠らせればいい、との事だったのだが、ただ眠るだけではダメで昏倒させる必要があった。
 しかし、セイバー相手にそんなことが出来る筈も無いので、こうしてセイバーに眠る暗黒面を引き出そうとしたワケだ。まったく、キャスターも変な薬を作ってくれたもんだ。

 この落とし前はいつかキャスターに取ってもらうとして。
 今の俺たちの状況はというと。

「シロウ、おかわり。次はバリューセットがいい」

「はい、少々お待ちを、お客さまー!」

 ゴスロリな衣装に着替え終わったセイバーが、もっきゅもっきゅと山となったジャンクフードを食べ続ける。

「リン、おかわり。マスタードは多めでな」

「はいはい、少々お待ちをー!」

 そんなハラペコ王に笑顔を振りまきながら挽き肉をこねくり回し、スマイル0円運動を展開中という感じだ。

「サクラ、おかわり。ケチャップをケチってはダメだぞ」

「はーい、すぐに作りますー!」

 きっと腹いっぱいになれば元のセイバーに戻るだろうから、それまで俺たち厨房を預かる者たちの戦いは終わりそうにない。ちなみにアーチャーは買出し部隊だ。

 ああ、まったく。
 最後はやっぱり俺が苦労するようになっているんだな、と常々思う出来事だったとさ。









後書きと解説

大判焼きに捧げるSS……ではなく。
ほのぼのに成りきれず、ギャグにも成りきれなかったカンジ。

途中、そのままスリーピングビューティよろしく、王子様のキスオチも考えましたが。
そんな作風はなんか違うんじゃね? という事で結局オチは担当ギルでした。
うーん……? 統一路線で行くならそっちの方が良かったかも?

前作のようなギャグオンリーテイストとはまた違った感じになったと思いますが、
これからも色々試していこうと思います。





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