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Part7







※WEB拍手内に掲載していたSSです。
 基本的に書き散らしたモノばかりですので、さらりと読み流す程度が理想です。



1/-ホロウ的世界の終末、対峙する二人の正義の味方の図-


「諦めろ士郎。君の正義は正義なんかじゃない」

「なんで……何で今更、そんな事をいうんだ、爺さん」

 二人の衛宮。二人の正義の味方。親と子。

 周囲には猛然と燃え上がる炎の輪。遠い街並みさえも焼き尽くす──煉獄の炎。燃えるように赤い空に穿たれた黒い穴こそ、聖杯が顕現した証。
 二人にとっての始まりであり終わりでもある場所。彼らの行く末を決める闘技場は、この場所をおいて他などなかった。

「何故、か。本当は分かっているんだろう、士郎。今まで幾人にも否定され、歪な在り方を恐れられ、時には都合よく弄ばれ、その果ては何も残らない。見たはずだ、知っているはずだ。士郎が辿る末路を」

 赤い荒野に突き立つ無限の剣。或る騎士が辿り着いた無明の極地。人の果て、理想を求め、行き着いた先に見たものは──願い続けた誰かの笑顔なんかじゃなかった。

「あんなものを見て、あんなものを見せられて。どうして我が子をそんなところに辿り着かせたいと願う親がいる。
 僕はね、士郎。君にこの正義を押し付けたかったわけじゃない。僕の辿り着けなかった場所へ、諦めてしまった夢を、君が継ぐと言ってくれたから。ただそれだけで、嬉しかった。本当に、それだけで良かった。
 ああ──本当、僕って奴はどこまでも無責任だ。シャーレイもナタリアも舞弥もアイリもイリヤも。そして士郎も。死んでまで、僕は誰かを傷つけなければいられないらしい」

 コートの裏から煙草を取り出しつつ自嘲する切嗣。

「違う! 俺は傷つけられてなんかいない! アンタは俺に生き方をくれたんだ。何にもなくて、空っぽの器だった俺に、希望を与えてくれたんだ! それを──それを、否定なんて……!」

「そうだね、士郎。君は僕の言葉に耳を傾けられない。僕が君に遺した言葉を、僕自身が否定するのなら。士郎は何も信じられなくなる。たった一つの想いさえ失くした君は、いつかの人形に戻ってしまうから」

「…………」

「だけど士郎。別にそれでいいじゃないか。僕の言葉に囚われる必要はない。今の君の周りには、多くの友達がいる。皆から少しずつ分けて貰えばそれでいい。そうすれば、僕の正義を忘れたって、君はずっと士郎として生きられるから」

 士郎を衛宮士郎へと変えた切嗣の笑顔。衛宮士郎の生き方を定めた切嗣の言葉。その想いがあったから、士郎はこれまで生きてこられた。それを捨てて、今更別の生き方を探せるほど、士郎は器用な男じゃない。だから。

「無理だよ、爺さん。俺はもう変われない。変わるつもりさえないんだ。あの戦い──半年前の戦いで、俺は誓ったんだ。確かめたんだ。この理想を諦めないって。貫いてみせるって。誓った奴が、いるんだ」

「…………」

「だから俺は、爺さんがなんと言おうが、この正義は貰っていく。返さないし奪わせない。たとえ借り物の理想でも、俺はこの想いと共に生きてきたから」

 ──一番最初に、もっとも綺麗なものをくれた人に誇りたいから。

「俺は────切嗣を超えていく」

 イメージは一瞬。魔術回路に澱みすらなく流れた魔力が形を成し、両手の中に剣を具現化する。

「……そうか。士郎の思いは、そこまで固いのか。ならば僕も、相応の手段を取らせて貰おう」

 士郎の知らない魔術師殺し──衛宮切嗣が具現化する。今日と明日の境界線、過去と未来の混在したこの世界に、在りし日のハンターの姿が浮かび上がる。
 右手に握られたクロガネの魔銃。数多の魔術師の命を奪い取ってきた人を殺す為だけの武器が創造された。

「容赦はしない。口にした以上は無論、覚悟があるんだろう?」

 銃口が士郎の眉間を射線に捉える。両手に握った剣をより強く握り締める。

「超えられるものならば超えてみろ。僕の下らない理想を守る為に、命を懸けてみろ」

「言われるまでもない。爺さんの夢は、俺が貫く。だからもう、アンタの心配なんかいらないんだ──!」

 士郎は強く地を蹴った。

 否定する父を倒す為ではなく超える為。我が子の身を案じこんな場所にまで現れた切嗣に、もう自分は大丈夫だと証明する為に。
 いつか差し伸べられた手を離し、到るべき高みを目指して────


2/-空の境界 蛇足的エピローグ-


 式に肩を借りながらひょこひょこと歩く幹也は、部屋に戻る前に伽藍の洞の所長である蒼崎橙子に挨拶に行こうと持ちかけた。
 この怪我のせいで随分と長く仕事を休んでしまったし、なるべく早く復帰しないと明日からの食い扶持にすら困る次第だ。

「……今じゃなくても、いいんじゃないか」

「え? うん、でも橙子さんにも迷惑かけたし、ちゃんとお礼くらいは言っておかないと。日を置くとまたそれをダシにからかわれそうだしね」

 もっとも、もう話の種は掴まれているも同然なので、焼け石に水程度だろうが。仕事復帰直後にネチネチと小言を言われるよりも、今のうちに聞いておいた方がいいだろうと判断したのだ。

「…………」

「ん? どうしたの、式。なんだか行きたくなさそうに見えるけど。橙子さんに何かあったの?」

「いや、何もない。まあ、行きたいって言うなら連れてってやる。断って一人で行かせて、また面倒事に巻き込まれたりしたらたまったもんじゃないからな」

「ははっ、幾ら僕でもそこまで運は悪くないと思うんだけどなぁ。巻き込まれるとしても、交通事故くらいだろうね」

 式は思う。幹也は運以前に自分から首を突っ込むのでそんなもの関係がない。それこそこんな足や目の状態でも、目の前にトラックが突っ込んできて身を晒されている女の子でもいれば形振り構わず助けに行くんだろう、と。

 いい意味でお人よし、悪い意味で馬鹿だ。

「何か言いたそうに見えるんだけど」

「別に。ほら、ちゃんと手を貸せ。こけられでもしたらこっちがいい迷惑だ」

 ぶつくさと言い合いをしつつ、二人は寄り添いあって道を行く。



「あれ……」

 慣れ親しんだ筈の廃墟ビル。見慣れた筈の風景が、幹也には何処かいつもと違って見えた。入院していた間に何かあったんだろうかと思いつつも、剥がれた壁面や消えかけの蛍光灯などは前と同じ。

 でも何かがおかしくて。しいて言うなら──そう、空気が違う。

「式、やっぱり僕がいない間に何か──」

「行けば分かる。もうすぐそこだろ」

 錆び付いた階段を二人不器用に昇りつつ、式は変わらず無愛想に──幹也に言わせれば何処となく不機嫌に──幹也は妙な不安のようなものを胸の奥で燻らせていた。

「────」

 そうして四階。いつも彼らの集合場所になっている事務所に入って、幹也は一人息を呑んだ。

 ────何も、ない。

 散らかっていたデスクも、スプリングの壊れたソファーも、山積みになっていたテレビも、ボロボロのショーケースも、使い込んだコーヒーメーカーも、部屋の総面積の半分くらいは占めていたであろう何に使うのか分からないガラクタも──何ひとつなく。

 ただ──何処までも空虚な、一度として見た事のなかった広々とした部屋だけが残されていた。

「だから言ったろ、何もないって」

「式……あの文脈じゃそんな解釈出来ないよ」

 はぁ、と溜め息を衝きつつ、幹也はもう一度室内を見渡した。

「驚かないんだな」

「うん。薄々は感じてたからね。元々、あの人と僕ら……とりわけ僕は、縁のあるような間柄じゃないし。いつかはこうなるんだろうとは思ってた」

 蒼崎橙子の作成した人形に見惚れた一般人は、呆れるほど探す事が得意で、隠遁を決め込んでいた魔術師と出逢った。

「まあ、唐突といえば唐突だけど。一応、別れの言葉みたいなのは貰ってたから」

 式を助けに行く際、幹也は急ぐ背中で確かに聞いていた。また明日、というサヨナラの言葉を。

 それでもやっぱり、少しだけ悲しくて、寂しい。自堕落で、資金の管理が滅茶苦茶で、給料の出ない月があったりして、あまつさえ貸してくれだとか言い出すどこまでも奔放な人。でもいつも、分かりにくい優しさだけは持っていて。
 そんな人だからこそ、彼らの出逢いは偶然で──別れは必然であったのだ。

 寄り添っていた式から身体を少しだけ離し、幹也は大きく頭を垂れた。それは感謝であったのか、謝罪であったのか──いや、心からの全ての想いを詰め込んで、もういない所長に、幹也は深く気持ちを込めた。

「よし、じゃあ帰ろう」

 一分近く頭を下げていた幹也は、徐にそう言うと、また式の手を握って階段を降り始めた。

「もういいのか」

「うん。別に未練とかはないし。あったものがなくなるのは寂しいけど、それは橙子さんが選んだ生き方だし。きっと今も何処かで元気にやってると思うよ。もしかしたら、僕達みたいな人と関わってるかもしれないだろ」

「……ああ。アイツは話だけは無駄に長いからな。説明キャラの立ち位置がお似合いだ」

 小さく笑いあう。

「あー、でもそれだと、どうしようかな」

「なんだ?」

「ん、だから、仕事。別に不自由する身体でもないけど、やっぱり新しい就職先を探すとなると結構ネックになりそうだなぁ……」

 と、幹也がそんなボヤキを漏らした時、式は唐突に足を止め、考えながら歩いていた幹也はつんのめる形で引き止められ、危うく階段から転がり落ちてまた病院に逆戻りになるところだった。

「ととっ。式、急に止まったりしたら危ないじゃないか」

「幹也」

「ん? 何?」

「…………」

 一度目を見たかと思えば、すぐに逸らして虚空を見る。何かを言いよどむ様に、式は立ち尽くしたまま視線を彷徨わせ、

「幹也」

「だから、何?」

「仕事、するんだよな」

「当たり前でしょ。でなきゃ食べていけないし。まだ親とは縁を切ったままだし、頼れないしね。あんまり貯金もないから、早めに探さないといけないけど」

「おまえ、家に来い」

「……え?」

「だから、おまえ家の仕事を手伝え。そんな身体で他の仕事されちゃ俺も迷惑だ。幸い、おまえ探し物得意だから、結構役に立つんじゃないか」

「………………え、式、それって」

 式の家の仕事を手伝う、という事は、つまりかなりの幅を利かせる地域組織の一部に組み込まれる事を意味し、無論、この場合はただ組に入れ、という意味で捉えるほど幹也も馬鹿ではなく──

「式……それって、プロポ──」

「馬鹿っ! そんなんじゃない!」

 そっぽを向きながら式は大股で階段を降りかけ──

「え、ちょ、式……!」

 もちろん手を繋いだまま思考を異世界に飛ばしていた幹也は為す術もなく引き摺られて足を踏み外し──

「うわっ……!」
「きゃっ……!」

 もつれ合うようにして、二人は踊り場まで転げ落ちていった。

「いつつっ……、式、怪我、ない?」

 咄嗟の機転で式を抱きかかえるように転がり、自らの体を下敷きにした幹也は背中を強かに打ちつけ顔を顰め、目の前にある式の顔を見上げた。
 その顔は、痛みや打ち付けたせいでの赤みではなく──紅潮していた。

「幹也」

「……なに?」

 気圧されるままに返事をする。

「答え、まだ聞いてない」

「…………」

 式にとっては、今この状況よりも先程の答えの方が重要らしかった。幹也は、どちらかを選べと言われてもきっとどちらも選べない。

「ずるいなぁ、式は」

「……なんで」

「そういうのはね、やっぱり男から言わないとダメだと思うんだ」

「そんなの、関係ないだろ」

「あるよ。君は女の子で、僕は男なんだから。そういうケジメはちゃんとつけたい」

「…………」

 式に見つめられたまま、幹也は目を閉じ深呼吸をする。答えなんて、とっくに決まってる。退院した直後、既に二人の心は決まっていた。
 だから後は早いか遅いかの違いでしかない。まさかこんなにも早いとは幹也も予想だにしてなくて、しかも場所がこのビルだというのがなんともいえない。

 ──私が消えれば黒桐は職を失う。働かなければ飯は食えない。しかし、身体は不自由で。そんなおまえを、式が放っておくわけがないだろう? ほら、全て予定調和だ。私から君への退職金代わりだよ──

 そんな、ニヒルな笑みを浮かべるもういない女性の声が聞こえてきそうだった。

「式、僕は──」

 だから、その言葉を口にしよう。

 あの人が残してくれた最後の想いなら、きちんと受け取って。黒桐幹也の本当の想いを、両儀式に伝えよう。

 これからもずっと、一緒に歩んでいく為に──


3/-赤の鬼と金の鬼-


「はっ──はっ──はぁ、……」

 息を切らせ暗い森を駆けるひとつの影。腰元までなびく長い髪を赤く染め上げ、狂気にと焦燥に表情を歪めた遠野秋葉が闇を裂く。
 その身体はボロボロで、無事な箇所は何処にもない。腕は衣服ごと裂け赤く染まり、足や胴も同じく朱に染まる。

 満身創痍。立っているのもやっとの身体で、けれど秋葉は止まらない。振り絞る体力など底をつき、身体を衝き動かすのは唯一つの感情──憎悪という名の嫉妬心。

「負け、られるもんですか。あんな女に……兄さんを──!」

 たった一人の兄の為。赤い鬼は傷んだ身体を引き摺りなお機を窺う。

 相対する金色の鬼──アルクェイド・ブリュンスタッドは悠然と森の中を練り歩く。

「あーぁ、退屈。妹はもうちょっとやるかと思ったんだけど」

 それも当然。彼女らは生物としての強さが違う。鬼の血の混ざった人間と、生まれながらに純血の鬼である彼女とでは規格が違いすぎる。

 アルクェイドの爪は秋葉の身体を裂き、振り上げられた蹴りはやすやすと少女の肢体を吹き飛ばす。撫でる程度の攻撃で──彼女は遠野秋葉を追い詰めた。

「おーい妹ー? 隠れてないで出て来てよー。もうさー、何回やっても同じだってそろそろ気づかない? 貴女と私じゃ違いすぎるって事──おっと」

 森の中に木霊していたアルクェイドの声を切り裂くように伸びた赤い糸。猛然と襲い掛かって来た攻撃を彼女はまるで蜘蛛の巣を払うかのように振り払った。
 それだけで霧散し四散する。秋葉の攻撃はアルクェイドには届かない。

「こんな程度じゃ私を捕えられないわよー」

『そうですか』

「ん? 何、今度は小手先の技? 姿隠して気配を消して、声の元さえ分からせない──かくれんぼをする年でもないでしょうに」

『はい。私もアルクェイドさんとそんな遊びをするつもりはありません』

「じゃあ早くでてきてよー。私なんだか飽きちゃった。志貴も待ってるしー」

『ふん……言っていればいいです。けれどこれは、躱せますか──!?』

 瞬間、アルクェイドの周囲に顕現する赤い糸。その数は膨大に過ぎてもはや糸ではなく面──壁であるかのように周囲を囲む。

「檻髪の牢獄……ね。洒落てるじゃない妹。でもこんなもの、鉄格子よりも軟いわよ!」

 地を蹴ったアルクェイドは速度を落とさず糸の壁に突貫。触手のように伸びた赤い能力を両手の爪で薙ぎ払い、最後の砦と構える万にも上る糸の壁を、一薙ぎに粉砕する。

「ほらね。こんな程度じゃ何度やっても──」

「チェックメイト」


4/-終わっていなかった戦いに幕を引け-


「は? 冬木からの呼び出し、ですか?」

 理由が分からないと首を捻る遠坂凛は、目の前のそれなりの造りで拵えられた執務机に肘をつき神妙に話を切り出した名目上の後見人──ロード・エルメロイ?世を今一度見た。

「ああ。セカンドオーナーの代理を務めている教会の神父からの火急の用件だ。まったく、教会の人間が協会相手に仲介もなしに直で書状を送りつけるなど前代未聞だ。互いの立ち位置をまるで無視する暴挙とさえ受け取れる」

「それくらいヤバイ何かが、冬木に起こったって言うんですか?」

 凛と共に招かれていた衛宮士郎が疑問を口にする。その顔は険しさを増し、ある程度の目処を既につけているようだった。

「で、用件というのは?」

「ああ。聖杯戦争の兆候が現れたらしい」

「…………ッ!? そんな! だってあの戦いはわたし達が二年も前に終わらせたじゃない!」

 有り得てはいけない事象が凛の与り知らないところで起こっている。その事実だけで彼女が驚きを露にするには充分だった。
 しかもそれが聖杯戦争、六十年に一度に行われる魔術師の狂宴であれば尚更だ。

 終わらせた筈の戦い。終わった筈の因縁。早すぎる開演の意味を、判じる事すら出来る筈もなく。

「しかし現にこうして向こうからは書状が届いている。真偽はほぼ疑うまでもない。教会とは相容れないが、その分能力的な面では充分以上に熟知しているからな」

「じゃあ本当に、聖杯戦争は終わっていなくて、しかもこんなにも短期間が再び開かれるって、ことなのか……。
 遠坂、こんなことってありえるのか?」

「冗談じゃないわ。あんなふざけた事、そう何度も起こっていい筈がないじゃない。わたし達の戦った五次だって有り得ない速さで開かれたのよ。四次の時に使われなかった魔力が残留してたから──」

 そこではたと気が付いた。五次においても状況的には同じなのではないか? 聖杯は誰の願いも叶えることなく消滅した。ならば四次から引き継がれた魔力は未だ霧散する事無く冬木の霊地に留まっており、消耗した分を補充するのに要した期間が二年であるのなら──

「いえ、それでもおかしい。確かにわたし達は聖杯を破壊したもの。器がなければ聖杯は降ろせない」

「ならば訊くが。本当に聖杯を破壊したのか?」

 ロードが問う。

「え?」

「二百年も前から繰り返されてきた儀式なのだろう。おまえ達が破壊した聖杯は本当に全てに決着を着ける代物だったのか?

 過去の連中がそうであったように、大本となる本体ではなく備品扱いの、代用の利く方を破壊して全てを終わらせたつもりになっていただけではないのか」

「…………」

 それを言われては凛には返す言葉がない。凛はあれで全てが終わったと思っていた。確実なまでに聖杯を消し去ったのだから。
 だからこそ過去の詳細な調査を行う事はしなかったし──時計塔へと編入やら何やらで忙しかったのも理由のひとつだが──行う必然性を感じられなかったのだ。

 だが本当は何ひとつ終わる事無く続いているとしたら。終わったつもりでいただけだったとしたら。その後始末は、誰の手でつけるべきなのだろうか。

「……決まってるじゃない。ロード、冬木へと戻る許可を下さい」

「そういうと思っていた」

 ロード・エルメロイはあらかじめ用意していたのか、二枚の休講許可証を提示した。

「俺の分も?」

「なんだ、戻らないのか?」

「あ、いえ、戻ります! あの戦いが終わっていないって言うのなら、終わらせるのは俺たちじゃなきゃダメだと思いますから」

「ならばすぐにでも戻れ。兆候を理解したのなら、少なくともトオサカには令呪が現れるだろう。エミヤの方は微妙だが、冬木へと戻ればあるいは」

「……ロード。ひとつ、いいですか?」

「……なんだ?」

「何故そんなに、冬木の聖杯戦争について詳しいんですか?」

 凛の問いかけが分かりきっていたのか、聞き流すかのように葉巻を咥えて火を灯し、紫煙を吐き出してから椅子事身体を横に向け、窓の外に広がる空を見た。

「何、ちょっとした縁があっただけという話だ。それ以上でもそれ以下でもない。ほれ、色々と準備もあるだろう? さっさと身支度を整えて帰国しろ。あんな下らないもの、さっさと完全に破壊してしまえ」

 それで話は終わったばかりにロード・エルメロイ?世は凛達に背を向けた。凛と士郎は礼を言い、それから素早く執務室を出て行った。
 彼は静かに白煙を吐き出し、右手の甲を持ち上げる。

 かつてその場所に印されていた絆があった。今はすでに色も形も失ってしまったが、確かにその場所には──彼が王と崇める男との絆があった。

 十年前の闘争からこっち、彼は自らの地位が高まりそれなりの自由を得た後、件の戦争の仔細について調べていた。
 原因不明の大火に呑まれ終結した第四次。参加した当人達から多少の事情を聞きだした第五次。

 その結果、得られた解は余りにも下らないものだった。冬木に存在する聖杯は──誰の願いも叶えない紛い物であるという結論。
 かつて蹂躙の王が自らの受肉を求めた奇跡の杯は、彼自身が口にしていたように、あるがないもの──あってなきに等しいものだったのだ。

 そんなモノに踊らされてこれまでどれだけの命が落とされたのだろう。死ななくていい命が消え去っていったのだろう。

「……いや、そんな事は関係ない。私のやるべき事は、一つだけだ」

 王の願いを叶えない紛い物を、王の臣下として破壊する。王の駆け抜ける筈だったこの世界を守る為に。

「ハッ、まったく。こんな半人前にも等しい私が、今更世界を救う為にあの土地を踏む事になろうとはな」

 立ち上がり、赤いコートを翻す。
 別にあの二人の日本人を信じていないわけではない。彼らには彼らの戦う理由があるように、ロード・エルメロイ?世──ウェイバー・ベルベットにも立ち上がるだけの約束があったというだけの話だ。

「戦いなど起こさせん。その前に、全てに決着を着けてやる」

 さも面倒臭そうに葉巻を灰皿に押し付け、何処までも気だるげに男は部屋を後にした。ただそれでも、顔に貼り付いた笑みだけは隠せていなかった。









後書きと解説





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