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ディルムッド・オディナの苦悩









 ディルムッド・オディナ────フィオナ騎士団随一の使い手にして、双槍の戦士。輝く貌のディルムッド・オディナと言えば、彼の英雄の国においては、その名を知らぬ者はいない。

 忠節に篤く、義を尊ぶその心。戦場においても戦士としての誇りを決して失わない誉れ高き彼の騎士が長らく苦悩するものは、その忠義にこそあった。

 彼の生涯は波乱に満ちたものであった。その過程で逸した忠節心。忠義よりも愛を良しとした自らの決断に後悔は無い。
 けれどもし、もし二度目の生などというものがあるのなら己が生で果たせなかった主君への忠義を果たしたい……その一心から彼はこの現世へと舞い戻った。

 だが。

 彼のマスターたる人物とディルムッドの間にある軋轢は決して埋まらない。第四次聖杯戦争を経てなお、彼らの間には確固とした壁が刻まれている。

 今日も彼はまた主に冷やかな視線を向けられ、罵倒され、それでもなお御身の傍にと嘆願してさえも、否の一言に切って捨てられる。

「何故だ……」

 もはや悩んでも答えなど出ない。ただ仕えるべき主に、忠誠を誓った主君に忠義を尽くしたいだけだというのに。あのマスターはそれさえも許してはくれない。

 ディルムッド・オディナの苦悩はケイネス・エルメロイ・アーチボルトには判らない。見返りのない忠誠。打算なき忠義。ただ尽くすなどという戯言を、彼の魔術師は決して信じない。
 世界の裏とも呼べる魔道に身を置く者として、親切や信頼は何かしらの見返りがあって然るべきものなのだ。全ては等価交換。差し出すだけの忠誠などありえない。何か裏があるはずだと、彼の魔術師は勘繰ってしまう。

 もしディルムッドに何かを欲するものがあれば、忠を尽くす以外の見返りを一つだけでも提示していれば、二人の軋轢はなかったのかもしれないのに……

 そんな取り返しのつかない事を思ったところで無為である。今日もまた、ディルムッドは何故許されないのかと眉間に皺を寄せ集めながら街を歩く。

 しかし、彼にとってはそんな自由さえも許されない。街中を歩けば行き交う女性が全て振り返りディルムッドの姿を追う。
 魔貌。生まれついての端正な顔立ちに、左目の下にある黒子の魔力。遍く全ての女性が虜となって彼の行く手を阻む。

 老若を問わず女性であれば彼に見惚れ、度が過ぎれば彼に直接愛を囁く。彼はその在り方からか女性の親愛を無碍には出来ず丁重に断り続ける。
 たとえそれが魔貌の仕業であろうとも、その呪いさえも彼を構成する一部分。女性に非はなく、あるとすればこの己。自らの能力を知りながらこんな往来に足を向けたこと自体が罪なのだ。

 押し寄せる女性の全てを丁寧にいなし、彼はようやく目的の場所へと辿り着いた。

 青く輝く空。流れ往く真綿の雲。水面は透き通るように美しく、押しては返す波と海鳥の鳴き声が耳に心地よい。
 冬木の北端にある港。この場所が最近の彼の憩いの場所だった。喧騒は遠く、わざわざこんな場所に足を運ぶ者もほとんどいない。

 彼の魔貌に見惚れる女性もなく、嫉妬に駆られる男性の視線も無い。一人きりで彼は常に苦悩する。己が忠節の在り処。いかにすればマスターにこのディルムッドの心を理解して貰えるのかを、決して答えを出せないままに悩み続ける。

 そうして日がな一日をこの港で一人で過ごすのが彼の日課となっていたが、今日はどうやら違うらしい。

「よぉランサー。こんなところにおったか」

「……ライダー?」

 振り返れば身の丈二メートルを超える巨躯の男。逆立つ赤い髪に獰猛な瞳。木の幹のように太い腕はアスファルトさえ容易く破砕出来るに違いない。
 そんな男が破顔一笑、手にした酒瓶──ライダーとの対比で酷く小さく見える──を掲げて近づいてきた。

「何か用か?」

「見て判らぬか。貴様と酒を酌み交わしに来たのだ」

 言ってライダーは無理矢理ディルムッドの隣に腰掛け、持ってきた酒瓶を脇に置き杯を取り出した。

「ほら、さっさと受け取らんか」

 むんずと差し出された杯をディルムッドは仕方なく手に取った。間髪入れず注がれる琥珀色の液体。ライダーは自分の杯にも豪快に注ぎ込み、ほれ、と高く掲げた。

「何をしておる。貴様も掲げんか」

 言われてまたも仕方なく言われたとおりにするディルムッド。

「うむ、良し。ならば今宵は語り明かそうぞ」

「……まだ日は高いのだがな」

 傾けあった杯は小さな音を奏で、ライダーは一息に酒を煽った。ランサーもここまでされては是非もないと思ったのか、同じように杯に口をつけた。

 ……どうやら、真昼間から酒盛りが始まったらしかった。






ディルムッド・オディナの苦悩/A festival of the King




/1


「しかし、一体どういう風の吹き回しだ、ライダー。わざわざ俺と酒を酌み交わしたいなどと」

 ぐびぐびと酒を煽るライダーに対し少しずつしか口をつけないディルムッド。横目にライダーを見やれば、口の端からぽたぽたと零しながら豪快に飲み干し、さぞ美味そうに息を吐いた。

「何を言う。酒を飲むのに理由なぞいらんだろう。とはまあ建前で、久々に誰かと酌み交わしたくなってなぁ」

「ならばセイバーやアーチャーがいるではないか」

「ふん。彼奴らとは既に一度杯を交わし終えておるからな。新たなる探索という奴さ。未知というのはいつ何時でも心躍るものよ……と、おお、わざわざすまんな」

 干した杯にディルムッドが酒を注ぐと、大儀であるなどと大笑しすぐさま飲み干すライダー。そうして話を続ける。

「余のマスターである坊主は酒はいけんし、バーサーカーは論外。アサシンは一度余の酒を拒絶した。キャスターならばいけるやもしれんが、性に合わん。言い合いになって叩き切ってしまうわい」

「……なるほど。それで俺にお鉢が廻ってきたというわけか」

 苦笑しディルムッドも一息に煽る。喉を滑り落ち臓腑を焼き、血の滾りに似た心地良さが全身を包んでいく。

「いい呑みっぷりではないか。ほれ、杯を出せ」

「かたじけない」

 そうして幾度か互いに酒を酌み交わしあう。この現代において、食を必要としなくなったサーヴァントの肉体ゆえに満足な食事をしてはこなかったディルムッドだが、やはりこうして誰かと酒を酌み交わすという行為は楽しいものだ。

 在りし日の故郷でも、こうした宴は数多く催された。盛大に我らの勝利を謳い、華やかに踊りを披露する。何が必要でもない、ただ朋友と呼べる者達に囲まれて、共に浸れるその時間こそが何ものにも代え難い大切な宝物だった。

 ただ、その悦楽に彩られた宴の全てが彼にとって愉しみに溢れたものだったかといえば否である。それもその筈。彼女が──グラニア姫が愛を囁いたのもまた宴の最中であったのだから。

「さてライダー。おまえはこの場に俺とただ酒を酌み交わしに来たわけではあるまい?」

 ぐびり、と酒を煽りながらライダーはディルムッドを横目に見やった。

「お主も人が悪いのぅ。判っておるのなら早々に言わんかい」

「ふっ。久々の酒宴だったのだ、少しぐらいなら罰も当たらんと思ってな」

 酒には人を惑わす魔力がある。酔って全てを忘れられるのなら是非も無いが、さもありなん。この程度の酒で溺れるほどディルムッド・オディナは安くは無い。

「ふむん。だが貴様と相伴したいと思ったことに偽りは無い。ただまあ、半々くらいと言ったところか」

「ではもう半分の用件とは?」

 干した杯を置き、ライダーは鋭い瞳でディルムッドを射る。

「何、ただの延長線よ。何かと街で貴様を見掛ければ辛気臭い顔をしながら歩きおって。あのような面構えで歩かれてはその偉丈夫が台無しであろう。
 そこでだ、酒を酌み交わすついでに貴様の愚痴を聞いてやろうと思ってな」

「愚痴……? 生憎と誰かに不平不満を漏らすような俺ではないが」

「たわけ。そんなだから貴様は根を詰めすぎると言うのだ。一人で背負い込むには重過ぎるものもある。溜めすぎた鬱屈はいつ暴発するともわからんのだ。そうなる前に吐き出してしまえ。一度誰かに吐き出せば、肩も多少は軽くなる」

 言って手酌で酒を飲むライダー。
 確かに、ディルムッドは自らの不満を周りに当り散らすような男では断じてない。むしろ美徳でさえあるのだが、行き過ぎのきらいがある。
 それが故に内に溜め込む癖がある。もし誰かに相談できるのなら、もしあの時……誰かに相談できていれば、別の結末も有り得たかも知れない。

 いや。それこそ感傷、冒涜だ。ディルムッドの決断に否はない。後悔は何もないのだ。姫の手をとったこの決意も、仕えるべき主君の憎悪を目の当たりにしてでさえ、一片たりとも後悔の念はない。

 もはや過去は既に変えられないものである。が、未来ならば幾らでも変えられるのではないか。このまま生前と同じ道を繰り返すだけならば、違う道を模索してみるのもまた、悪くは無い……か。

「そうだな。だが、俺の性には合わん。だからこれは独り言だ。答えの出ない苦悩を、ただ口にしてみるだけの」

 ディルムッドもまた酒を煽る。ライダーは何も応えない。それが独り言であるならば、口を差し挟む余地は無いと知っているのだから。

 そうして訥々と語り始める。誰に聞かせるでもないディルムッドの苦悩。誠意に満ち溢れながら、決して受け入れられない呵責。悩んで悩んで悩み抜いても、どうすればいいのかさえもはや判らなくなった、或る一人の忠義の騎士の在り方を。

 話し終えて幾許か。漣の押し返しと海鳥の鳴き声だけが残響し、ライダーは空を仰ぐように倒れ伏した。ディルムッドもまた、膝を抱えて空を見上げた。

「そういえば」

 やおらライダーが口を開いた。顎鬚を擦りながら空を見上げ、さも独り言だと言わんばかりに。

「そういえば、世の征服を企てる王がおってな。その王は義に篤い騎士を捜し求めておるのだと。
 しかし今の世の中、王の背に夢見る若者もそう多くはないらしい。現代で手に入れた忠臣はただ一人だけらしいのだ」

「ほう、それで?」

「であるからして腕が立ち義に篤く、王の為に槍を取る無双の豪傑とあらば即座に重用したいと思っておるのだが、如何なものか」

 それは明らかな誘いだった。ディルムッドの今のマスターには見る目が無さ過ぎる。これ程の騎士を侍らせておくには勿体無い人物であると。
 その双槍を振るい敵手を打ち倒すのはその者の為ではなく。真に忠を尽くすに足る主を求めてはどうかと、進言をしていた。

「……その申し出は酷く有り難いものだが、俺の誓いは変わらんな。我が忠誠を尽くすべき主君は、今代にて俺を召喚せしめたマスターのみ。
 忠義を尽くす相手を見限るなど、それこそ不忠の騎士の所業だ。それでは俺の願いは叶えられん」

 それが答え。たとえ非難され罵倒され守ることさえ叶わなくとも、既に誓いを立てた主を見限る事など出来はしない。
 己が死するその時まで、主の鞍替えなど以っての外。笑止千万もいいところだ。

「ふぅむ、残念よなぁ。だがま、我が門扉はいつでも開かれておる。気が変わったのなら声をかけてくれ」

「ああ、有り得んだろうがな。感謝する、ライダー。おまえのお陰で幾分気が楽になった気がするよ」

 そう。胸に誓ったものは違えない。ならば結論など、最初から出ていたようなものではないか。その確認を出来ただけでも有り難い。これからも苦悩はするだろうが、雑念に惑わされることはなくなるだろう。
 ただこの誠意を伝え続ける。いつの日か、我が心を主が理解してくれるその日を夢見て。





/2


 ────と。ここまでで話が終わっていれば良い話の一つで済んだところだが、どうもそうはいかないようだった。
 雲行きが怪しくなる。とはいっても天候の話ではなく、ディルムッドの心情においてのものだ。

 明くる日。ライダーとの酌み交わしを経てなお強くした誓いを胸に、マスターに今日こそはと嘆願したが、にべもない。しかしこの程度で挫けてなるものかと、今日もまた港に顔を出したその時。異変に気が付いた。

 以前語ったように、わざわざこんな辺鄙な埠頭に寄り付こうなどと思う輩は、そうはいない。夜景の綺麗な場所は他に幾らでもあるし、夜ともなればこの場所は暗く沈んだ闇色に閉ざされる。
 昼は昼で暇な釣り人が時たま顔を出す程度で、子供達の遊び場としても相応しくないこの場所はディルムッドの憩いの場である筈だった……のだが。

「……ほう。これは中々の代物ですね、ライダー」

「そうだろう。あの金ぴかの持っておったヤツには及ばんが、これはマッケンジー夫妻よりの賜り物でな。彼らの心が込められておるのならば、どんな名酒にも引けは取らん」

「マッケンジーとは確か貴方とマスターが厄介になっている御仁の姓でしたね。ならば私も相応の礼を以って頂きましょう」

 言いながら酒を飲み干すライダーと、昨日はいなかったセイバー。何故に彼らがこんな場所で酒宴を開いているのか、ディルムッドには皆目検討がつかなかった。

「んん? おう、ようやっときおったかランサー。待ち草臥れたぞ」

 その折、ディルムッドの姿を認めたライダーが大笑しながらこちらに向かって手を振ってきた。セイバーもまた傾けていた杯を戻し、一礼を以ってこちらに視線を配った。

「ライダーに……セイバーまでも。一体貴殿らはこのような場所で何をしているのだ?」

「見て判らんか。宴よ、宴。主賓が遅れたとあっては盛り上がらんではないか」

「主賓……?」

 はて……ディルムッドはライダーと今日もまた杯を掲げあう約束などしていなかった筈だが。疑問に思っていると、やおらセイバーが口を開いた。

「そうです、ランサー。それに、貴方は悩みがあるとか。騎士なる者の王として、貴方の忠義の在り方に一過言申しておきたいと思いまして」

「いや、だが俺は……」

「ふん。余はおまえを王と認めた覚えは無いのだがな、セイバーよ」

「何を戯けた事を。貴様が認めようが認めまいが私は一国を預かった王だ。貴様に否定されたところで我が誓いに否はない」

「それはもう聞き飽きたし、今日の本題はそこではない。この忠節篤い男の話だ」

「おお、そうでした。ではランサー、こちらにどうぞ」

 すすっと身をずらして座れと促すセイバーに、ランサーは複雑な面持ちのまま胡坐をかいた。
 もはや誰に何を言われたところでディルムッドの忠誠心に変わりはなかったのだが、このまま席を辞するのも如何なものかと思い、暫しの間だけ相席する運びとなった。

 杯を受け取り、セイバーの手酌で酒を注がれる。昨日のソレとは違う、日本の銘柄の酒だった。

「うむ。では今日の我らの出会いを祝して乾杯と興じよう」

 掲げた杯が音を奏でる。そうしてまたしても酒盛りが始まった。







「いや、だからなぁセイバー。騎士たる者は王に憧れを抱かねばならん。王の背中に共に夢を見られる者こそ真なる忠臣、真なる騎士というものよ」

「確かにそれは一理ある。だが決してそれが全てでは無いだろう。騎士もまた人である以上はその心は千差万別だ。己の為、民の為、国の為。何の為に剣を執るかは決して王が決めていいものではない。
 王はただ国を導くだけの存在であればいいのだから」

「たわけ。その為に国を滅ぼした輩が何を謳うか」

「そういう貴様とて同じようなものだろう。貴様の亡き後に相続争いで滅びた国など、蛮族のそれと比して何ら違いなどありはしない。
 覇道を騙り、暴虐を尽くした末路など、遥か古より全く変わらん」

 火花散るライダーとセイバー。それぞれが語る騎士道はそれそれが抱く王道と同じようにまた異なる。それが故の衝突。苛烈なる舌戦なのだが、板挟みにされるディルムッドの気持ちも汲んで貰いたい。

 確か最初のうちはディルムッドの騎士道についての言及であった筈なのだが、何時の間にかそれぞれが理想とする騎士道へと話題は変遷し、更には王道への言及へと飛躍してしまった。

 空けられた酒瓶は既に十本を超え、セイバーはウワバミのように煽って煽り、ライダーはライダーで酒豪のそれに近い飲みっぷり。
 口論は激化の一途を辿り、けれど互いに手酌をし合うのは仲が良いのか悪いのか判別がつかない。

「言ったなセイバー。ならば聞こう。真なる王とはなんたるものか。ただ救うだけの王に一体何の価値があるというのだ。
 王とは導。遍く民を先導し、率いる兵に夢を見せることこそ覇道の証明。たとえその果てが滅びであっても、我らが共にした胸の輝きは誰にも穢す事なぞ出来はせん」

「我が王道は救うだけのものでは断じてないッ! 民が理想とし、騎士が理想とする王。それが私の王道だ。民や騎士に示すのは蛮勇の英雄譚などではない。
 国を統べ、民を守り、理想を是とする王の中の王。正しき道をこそ示すべきなのだ」

「道に正しいも間違いもあるかい。善悪の問答なぞ後世の学者連中にでもさせておけばそれでいい。我らは我らの目指す彼方を夢として、己が足で駆け抜けるのみよ」

「ならば! 貴様は────」

 もはや罵声にも近くなってきた二人のやりとりを、ディルムッドは距離を置いて眺めるばかり。完全に蚊帳の外。手酌でちびりちびりと酒を舐めては空を見上げて一息つく。

「……何故俺はここにいるのだろう?」

 ディルムッドがそんな疑問を抱くのも、致し方ないことだった。





/3


 更に翌日。かつてディルムッドの憩いの場であった港は、もはや魔境と化していた。

「うぅむ、しかし美味いなこの酒は。おい、金ぴか。一回その蔵を余に物色させろ。まだまだ日の目を浴びていない極上酒があるに違いない」

「虚けが。誰が貴様なぞに我の宝物庫への侵入を許すと思う。こうして振舞ってやっているだけでも有り難いと思え。
 ところでどうだ、セイバー。これがこの世の悦楽というものだ」

「……ふむ。確かに味は素晴らしい。酒だけでなくツマミまでも完備とは……。しかし私はこちらの現代の食事も好ましい。贅の限りを尽くすのもまた一つの在り方だが、安くとも手を加え心を込めて作られた食事は我が心に響くものがある」

「だろう、セイバー。これが家庭の味、日本の味という奴だ。老夫妻も国外の御仁だが、住めばその土地の色に染まり往くもの。いまや完全なまでに和の心を体現しておる」

 どこまでも完全に酒盛りだった。埠頭を囲む三人の王。昨日は居なかった筈のアーチャーを筆頭に、各々が持ち寄った和洋折衷の各種ツマミ、日本酒ワインに焼酎ブランデー、更には英雄王の持つ美酒まで空けられているという大盤振る舞い。

 征服王の大笑が空に響き、眼の色を変えた騎士王が静かに箸を動かし、リスのようにこくこくはむはむと食べ続ける騎士王を横目に満足げな英雄王。

「それにしても。一体貴様らは何故このような場所で酒盛りをしていたのだ?」

 アーチャーがそんな根本的な疑問を投げかけた。

「んん? さてなぁ、なんだったっけ。まあいいじゃないか。こうして杯を衝き合わせ、美味いツマミが食えるとあらば理由の如何など瑣末ごとよ」

 言ってむんずと掴んだツマミを口の中に放り込む。

「……ああっ! ライダー、それは私の砂肝です!」

「おお、悪い。代わりにこの何とも知れぬ肉を進呈しよう。おい、金ぴか。これは一体何の肉だ?」

「……ぬ? それか。それは世界の終わりに饗されるという獣の肉だ」

「おまえの蔵ん中……なんでもアリだな」

 ガハハ、と笑う征服王が酒盛りを呆然と見ていたディルムッドにようやく気が付いたらしく、

「おぉい、ランサー! 貴様もこっちにて一緒に飲まんか!?」

 そんな事をのたまった。

「…………」

 もはやついていけない。この場所にいてはいけないと本能が警告する。ライダーの声を背に、ふらふらとランサーは立ち去る決意をした。
 かつてディルムッドの憩いの場であったこの場所が、何時の間にか王達の饗宴の場と化していた。ディルムッド自身、何を言っているか判らなかったが事実そうなので考えるのを止めた。

 確固として判った事が一つだけ。あの自称王の三人には、決してこのディルムッド・オディナの忠誠を誓うまいと、固く固く胸に刻んだのだった。









後書きと解説

Zeroでha時空その三。

ランサーズヘブン/Zero?

ランサーの楽園は、十年前から既に失われていたのでした。
と、その一言で纏められてしまうオチ。

とりあえず、ディル兄さんは主役向きではないと痛感したのでした。



2008/05/22



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