満月 最終夜/貫く者と守る者 /1 予期せぬ援軍により情勢を一気にひっくり返した式たち。 それでも終わりは来ない。 だがそれは最初から解っていた事だ。 この異形の群れの目的は彼女らを打倒する事ではない。 ただの足止め。 それ故に戦闘力を落とし数で圧倒する方式を取っている。 だがそれを知りつつも式たちは前には進まず、ただここで敵を止める。 何故なら前に進んだ者が既にいるから。 これは彼らの物語。そこに彼女らの求めるモノはないのだ。 彼らが前に進んだのだから、この場の者は後方の憂いを断ち切る役目を自ら負った。 繰り返される咆哮と殺戮。 そんな中、振るったナイフを引き戻した直後、式が足を止める。 「──────月が」 ふと、空を見上げれば。 「げっ。────まさか、アイツが来てるの?」 空を見上げたまま顔を顰めるのは蒼崎青子。 「ほう、ド派手な演出もあったもんだね」 「まさか……空想具現化!? なら────彼女がっ!」 「へえ、すげえな、こりゃ」 皆それぞれ違う反応は見せるものの、向けられる視線は同じモノを見つめている。 ──────朱い。 視線の先。 其処には、──────夜空を染める鮮血の月。 /2 響く靴音。 絶対の恐怖を纏い歩み続ける金髪赤眼の女性。 「……! ぐ───思考、が、────な、んだとっ!?」 ノイズを走らせていたワラキアがカタチを得る。 否、カタチを得させられている。 「────! アレ、は……ズェピア・エルトナム・オベローン……まさか、本当に?」 「え? じゃあアレがシオンの祖先、ワラキアになる前の姿だって言うのか? ていうか、アルクェイド? おまえなんでここに……」 ノイズは完全に消失し、確固たるカタチを得る。 金の頭髪と、貴族のような格好をした男性の姿。 「貴様────っ、何者!」 「この遊戯の審判者。朱い月と名乗れば良いか?」 「────有り得ぬ。 この身が、この私に戻るだと? そのような理不尽、起き得よう筈が無い。 貴様が真祖の王族であろうと、現象になった私を存在に戻すなど────!」 「戯け。夢から覚めるがいい、死徒。おまえが望んだ奇跡は叶わぬ。 たとえ何千と年月を重ねようが、その身が第六と成る事はない。 無限の時間を連ねれば第六に至ると思うは自由。僅かな可能性に懸けるも良かろう。 だが奇跡の果てを知れ。その姿こそ、汝の果てよ」 粛々と述べる朱い月と名乗った者。 「貴様、何をした」 「解らぬか。ああ、それも無理はない。 このような場所を最期の地と選んだ汝の手抜かりだ。 ならば知れ。 汝の頭上に輝く、────朱い月を!」 フラッシュバックのように一瞬だけ、頭上に血に染まった月が映し出される。 「な………まさか、赤い、月だと。 それは、私がワラキアの夜となった夜の────」 「思い出したか。 自らを現象とする為に赤い月より汲み取った力。 その猶予は、再び赤い月が現れる刻であろう。 それが汝がアルトルージュ・ブリュンスタッドと交わした契約だ」 「そんな、バカな………次に赤い月が輝く夜は千年も先の出来事だ。 その時まで私はタタリであり続ける。 なら……私が私と成った理由………貴様、まさか」 「察したか。いかにも。 嬉しかろう? 千は続く徒労を、今此処に具現してやったのだからな」 「まさか、空想具現化で千年後の月を作り上げたの……!?」 戦慄が走る。それは本来有り得る筈のない出来事。 時間旅行ですら魔法の域とされているのに、この朱い月と名乗った者は千年後の月をこの刻まで持ってきたと言うのだ。 「何を驚く? ここは私の世界だ。 汝と同様一夜限りの世界ではあるが、それ故に私に用意できぬ世界はない。 ワラキア風に言うのならば、私も汝も一夜限りの嘘に依る支配者。 より優れた空想を具現する者がいれば、劣った空想が妄想に堕つるは必定であろう?」 「──────では。私の、望みは」 「叶わぬ。汝の駆動式の終焉は人間の終焉だ。 無人の荒野に君臨するのも一興やもしれぬが、それは望む所ではあるまい。 なにより汝の描く舞台は酷く不快だ。 よって、ここでその存在を終えよ、ワラキア。何、元より汝は人々の口端にのぼる噂にすぎぬ。噂の一つ二つが消えようと、世に何の支障もなかろう?」 「(なあ、遠坂。あの人は誰で一体何を言ってるんだ?)」 「(アンタ……今更それは私でも呆れるわ。 ま、良いわ。名前くらいは聞いたことがあるでしょう。彼女がアルクェイド・ブリュンスタッド。真祖の姫君と呼ばれる真祖の王族に名を連ねる者よ。 確か志貴たちはそんな化物と知り合いだって聞いたけど。……あの顔を見るに、なんだか雰囲気が違うみたいね。 で、彼女が何を言ってるかと言えば、至極簡単。姫君はワラキアに死ねって言ってるわ)」 「(うわ、凄いな。一応味方っぽいけど、えらく敵っぽい発言だ。 ……さっきのノイズみたいのが無くなったけど、アイツ、倒せるのか?)」 「(二人の話から察するに今のワラキアはタタリと成る前のズェピアという名の吸血鬼よ。 なら、今ここでアイツを倒しちゃえばタタリっている死徒もいなくなるわね)」 「………………!」 「ハハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハ! そうか、至らぬか。何千年とタタリと続けようが、私では至れぬというか、朱い月よ!」 それに朱い月と名乗った者は答えず。 「だが私は滅びぬ。消えぬ。諦めぬ! 我が名はワラキアの夜、現象となった不滅の存在だ! 今宵が私にとっての終焉であるというのなら、貴様を滅ぼせば私は終わらぬ。 そしてなにより今、目の前に門があるのだ! 千年の果てに辿り着けぬというのなら、今此処で至って見せよう────!」 高笑いから一瞬後、両手を広げ、空を抱くようにワラキアは殺意を放つ。 現象から存在に貶められたとはいえ、仮にも死徒に数えられる吸血鬼。 生半可な実力の持ち主ではない。 「うーん、そうなのよね。 そればっかりはわたしじゃどうしようもないから、志貴たちに任せるわ」 途端、張り詰めていた空気が弛緩し、いつものアルクェイドへと立ち返る。 「あ、アルクェイド?」 「そういうワケだから志貴、頑張ってアイツを退治して聖杯も破壊してね。 わたしはここを維持するだけで精一杯なんだ」 「なっ………おまえ、さっきの強気はどうしたんだよ! ええい、都合の良い時だけ脳天気になりやがって!」 「だいじょぶ、だいじょぶ。味方はたくさんいるじゃない。 あ、ほらほら、来るよアイツ。お喋りしてる暇はないぞー、志貴」 ニコニコ顔でさらりと言ってのけるアルクェイド。 どうやら置いてけぼりを食らったことを根に持っているらしい。 「うわあ、コイツってばとんでもねー!」 /3 「ダメだ。セイバーは戦わせられない」 「ちょっと、何言ってるの士郎。 使える戦力は全部使わないで、アイツを倒せると思ってんの?」 「そうです、シロウ。 何故私が戦ってはいけないのか、説明を要求します」 ぐぐっと詰め寄ってくる遠坂とセイバー。 「セイバーには、最後にやってもらう事がある。 既に一度エクスカリバーを撃ったんだ。 これ以上余計な魔力を割かせるワケにはいかないだろ」 セイバーが望むのは終結後の未来。 なら少しでも魔力を残しておいて貰わないと、支えきれなくなってしまうかもしれない。 それに聖杯の破壊はセイバーじゃなければ無理だろう。 なら、アイツを倒すのは俺たちの役目だ。 「だからセイバー、アイツは俺たちに任せてくれ。 必ずセイバーに繋げてみせるから」 「シロウ………」 「まったく。とんでもないわね、アンタ。 で、そこまで言うならアイツを倒す作戦とか、何かあるんでしょうね」 あるさ。なければこんな事言うもんか。 「志貴! シオン!」 二人を呼び、残りの二人を見る。 アルクェイドと呼ばれた女性は本当にその場から動かず、ワラキアは何故か襲ってくる気配が無い。 何を企んでいるのか知らないけど、こっちにとっては都合が良い。 「何でしょうか、士郎」 「遠坂、志貴、シオン。 一分。一分だけアイツを足止めしてくれ」 これだけ言えば、遠坂なら俺の思惑など見抜いてくれるだろう。 「ちょ、士郎! それは──────!」 「持てる最大戦力をぶつける。そうだろ、遠坂」 「何か、あるんだな? 士郎」 蒼い瞳が俺を覗く。 「ああ、一分持たせてくれれば俺が必ず道を拓く。 後は志貴に任せる」 視線をぶつける。それだけで今は充分。 「わかった。シオン、遠坂さん。行こう」 「さあ、準備は整った。 始めよう────順に血祭りに上げてくれる!」 舞うようにワラキアが駆け、黒い残像を奔らせる。 それに対峙する三人が構えを取る。 「志貴! シオン! 来るわよ!」 三人は散開し、ワラキアを囲むように動く。 「ハハハハハ、何故セイバーが来ないかは知らないが、都合が良い! だがな、敵を私だけだと思わぬことだ!」 「──────!」 頭上に存在する黒い太陽。 鳴動するようにただソラにあったソレから、黒いモノが流出する。 そう。開幕直後にワラキアが動かなかった理由。 それがこの泥にある。 うねり、意思を持つように乱舞する黒い泥。 何故、泥がワラキアの味方をするのか。 「何故、か。下らぬ問いだ。最初に言ったはずだ。私は聖杯と繋がっていると。それは今も昔も変わらぬ真実! タタリとは願いを曲解し、血を飲み尽くす現象の名だ。そして、あの聖杯に眠る全てを呪う悪。あれもまた願いを曲解し、破壊を以って叶える存在だ。 ここまで言えば解ろう。 そう、タタリもアレも結末は同じ。故に、ヤツは私に共感し、私はヤツに共感したのだ!」 ワラキアが告げる最後の事実。 此度の聖杯戦争の裏で組み交わされた原初の契約。 それ故の異常。 タタリと成る前にワラキアが三度現れたのも、今ワラキアと共に在るこの世全ての悪も。 全てはその契りのせいなのだ。 だが、ここに至ってそんな話はどうでもいい。 残された道はただ一つ。 ヤツを倒す。それだけ知っていれば他は必要ない事だ。 振るわれる爪牙に跳ねる黒い泥。 二重の黒が闇夜を切り裂き、志貴たちを襲い続ける! 志貴たちが必死に耐えてくれている。 なら、俺は俺の成すべき事をすればいい。 心を静め、心に沈む。 意識は裡へ。ただ己の内面だけを見つめ続ける。 「──────────」 あの時に開かれた二十七の魔術回路。その一つ一つに火を灯す。 撃鉄が落ちる。 迸る魔力が出口を求め、氾濫する。 「──── 体が、熱い。 傷ついた体を内と外から抉られるような感覚。 ギチギチと音を立て、外へ出ようとする裡に眠る千の剣。 「──── だがそれでも言葉は紡がれ、体は式を成す歯車となる。 ────現実で敵わない相手ならば、想像の中で勝て。 自身が勝てないのなら、勝てるモノを幻想しろ。 ああ、そんなことは当たり前だ。 俺に許されたのはたったそれだけ、たった一つのコトだけだ。 「──── 俺に許された唯一つの魔術。 自分を騙し、誰をも騙し、世界をも騙しきる一つの魔術。 「──── ────難しい筈がない。 ────不可能な事でもない。 「──── 元より、この身は──── 「──── ────ただ、それだけに特化した魔術回路────! /4 「はっ────ぐっ………」 志貴の体を切り裂く黒の爪。崩れ落ちるように膝をつく。 「志貴!」 「ハハ、ハハハハハハハ! 直死の所持者よ! まずは貴様が消えろ────!」 悪性情報が振り下ろされる、その、────刹那! 士郎が真名を口にする。 瞬間。 何もかもが砕け、あらゆる物が再生した。 ────炎が走る。 燃えさかる火は壁となって境界を造り、世界を一変させる。 「なっ────バカなッ! 固有結界だと!?」 後には荒涼とした赤い世界。 無数の剣が乱立した、剣の丘だけが広がっていた。 その中心。 君臨するように立つ一人の男。 「────! そうか、ギルガメッシュの記憶にあった、あの────!」 魔術理論・世界卵による心象世界の具現、魂に刻まれた『世界図』はめくり返され、現実を浸食した。 剣の丘。 生き物のいない、剣だけが眠る墓場。 ここには全てがあって、おそらくは何もない。 故に、その名を 生涯を剣として生きたモノが手に入れた、唯一つの確かな答え──── ────ここから先は、もう言葉など必要ない。 掌を広げる。 そうすれば、まるで其処にあったかのように、剣はこの手に握られる。 使う剣はただの一本。 ───── 俺の世界にいつからか存在し、その輝きを湛え続ける煌びやかな選定の剣。 「シロウ………それは、私の」 その剣はセイバーの愛剣。永久に失われた筈の始まりの剣。 これが俺が今、再現できる最も強力な剣。 だけど俺に出来るのは、この剣を引き寄せるまでだ。 「セイバー、力を貸してくれ」 この剣はエクスカリバーのように魔力量に左右される兵器ではなく。 発動に必要な魔力さえ流せば起動する限定礼装。 だけど俺じゃ起動は出来ても発動はできない。 この剣の真なる担い手は俺ではなく、セイバーだから。 「はい、シロウ」 確固たる目で俺を見つめるセイバー。 そして共に握られる黄金の剣。 「くっ────だからどうした。 人の身でその領域に至るは賞賛に値するが、固有結界などそれほど稀有なものでもない。 恐れるほどの、モノではない────!」 具現する黒い泥。 かつてないほどの質量を以って、壁のように立ちはだかる。 「ハハ、ハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! さあ、全てを飲み込め、この世全ての悪! 受けよ、人間! 六十億を呪うその悪を、耐え切れるものか!」 天蓋にも届かんとする壁のような泥が津波のように鳴動し、全てを飲み込まんと襲い来る。 ああ、だからどうした。 目の前の人たちを消し去ろうとするおまえなんかに、俺たちは負けてやらない。 目に見える世界だけでも救ってみせると、固く誓ったのだ。 自分に、遠坂に、セイバーに、そしてアイツに! だから衛宮士郎は、最後までこのユメを張り続ける。 その先に求めたものが何一つなかったとしても、この思いだけは間違いなんかじゃないんだと、信じているから。 俺は貫く、────この心を。 そう────我が身は剣、硬い剣で出来ている。 「────セイバー!!」 「────はい!」 閃光。 煌びやかな刀身が輝きを増し、二人の手を以って振り上げられる。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 「はああああああああああああああああああああああああ!」 振り上げられた選定の剣。 そして、それが振り下ろされる時、黒き泥を一閃する───! 「──────志貴!」 士郎の剣で縦に切り裂かれた黒き泥。 切り拓かれた道は、黒を寄せ付けぬ白の王道。 「ぐっ────ありえぬ! なんだ、貴様らはァァッァァァァ!!」 何? そんなもの、何の関係がある。 おまえという存在がいるだけで、俺の大切な人たちを脅かす。 だから俺はおまえを倒す。 俺の大切な人たちさえも殺そうとするおまえなんかに、俺たちが負けてやる道理はない! 俺は守る。大切な人たちを。それを脅かすおまえたちから。 理由なんて、それ以外に必要ない────! 「はぁ────!」 駆ける。 士郎の拓いた道を独り、駆け抜ける。 地面スレスレ、ギリギリの所を、限界の速度で走り続ける。 ギチギチと唸る脚を抑えつけ、ただ前へ。 ヤツの点は既に視えている。 後は、それを俺が穿てば全てが終わる─────! 「まだだ、まだ終わらん────!」 振り上げられる黒い爪牙。唸りを上げる黒煙の直撃を被る。 「はっ───ず………っっっ!」 血が流れる。 ────だからどうした。 視界が霞む。 ────だからどうした。 膝が崩れ落ちる。 ────だから、どうした! ここで! 今ここで進まないで俺はいつ、前へ進む! 士郎の拓いてくれたこの道を! アーチャーとアサシンが繋いでくれたこの道を! 俺が、終わらせてたまるかってんだ────! 「う、おおおおおおおおおおおおおおおお!」 最後の一歩を、踏み込む。 そして、 死の点へと、ナイフを、突き立てる! /5 「苦覇、阿覇ははは、アハハ派簸刃破ハハ葉ハハハははははははハハ!!!!!!! 終わる、タタリが終わる、私が終わる、世界が、オワル! カット、カット、カット、カットカットカットカットカットカットカットォーッ!! 認めぬ! 認めんぞ、貴様らァァァァァァァァ!! 私がナニを成すカもしらズ、終わラせおッてェェェェェェ!!!!!!!!! キサまラハ、今!!、セカいヲ 、コロシタのダゾ!!」 血の涙を流しながら狂ったように咆哮するワラキアの夜、いや、ズェピアであったもの。 銀の杭を模すように穿たれた志貴のナイフ。 どばりと何百年と溜め込んだ血液が滝のように流れ落ちる。 「ワラキア………言い残す事はあるか」 シオンが問う。 それは情けか、同情か、哀れみか。 「なあ、…………シオン」 それは優しい声だった。 だが既にそれは人のカタチをしていなかった。 ただ、際限なく流れ落ちる血液の柱と、その上に泣き笑う仮面があるだけ。 そんな仮面のまま見つめ、ズェピアは己が娘に言葉を残す。 「私はな、ただ、未来が欲しかっただけなんだ。 優れた錬金術師であれば誰であろうと到達しうる未来。そこには、滅びしか存在しなかった。 ソレを知った我々はソレを回避する為に、あらゆる状況、方法、可能性をシミュレートした! なのに手を尽くせば手を尽くすほど、私たちは余計ひどくてメチャクチャでグロテスクな未来を運営するだけだったんだ! 狂った。滅びの未来に至った錬金術師はみな狂った。狂ったように未来に挑んだ。そして本当に気が触れた」 どばどばと血を流しながら、それでもズェピアは語る。 「ひひひ、あははははははは! アトラシアの名は不可能を可能にする称号。 だから私は挑んだ。滅びの無い未来を作る為に、この壊れた世界を変える為に! でもダメだった、無理だった、届かなかった、至らなかった。あひひひひひひ、あははははははは。 シオン。君も必ずそこに辿り着くよ。そこに辿り着いた時、君は何を思い、何を描き、何を成すのかな。アハハハハハ、アハハハハ、ヒヒヒヒヒヒッヒヒッヒ! 狂気、凶器、狂喜ィィィィ!」 流れ落ちた血溜まりの中──── 「アァ、ナンテコトハ無いのに。ワタシが望んだものはただ一つ。 ソウダ、ワタシ、ワタしハ、そウ───ただ、」 ────天を仰ぎ、掌をかざす。 「そう────、私は、ただ、………計算しきれぬ未来こそが、欲しかった────」 届くと信じ、ただ前へと歩んだ錬金術師、ズェピア・エルトナム・オベローン。 その身が届かぬと知ってなお、その高みへと挑もうとした虚言の王は。 その境地に到達しうる事無く、 ────この世界に別れを告げた。 /6 「バカな人。行き着く先なんて皆同じなのに。 カタチあるものは必ず滅びる。わたしたちの終着駅は滅び。 そんな解りきったこと、そんな当たり前のことさえ受け入れられないなんて」 そう、アルクェイドの言うことは正しい。 始まりがあれば終わりがある。それは絶対のルール。 ただ、それを認められなかった者がいた。 それを変えようとした者がいた。 これは、──────ただそれだけの話。 「……そうだな。けど、アイツは知ってたんだろ。 そういう未来があって、ついでに、自分たちにはそれを回避する手段があるんだって。 だから認められなかったんだ。 だって逃げ道が見えているんだから、道がある限り試し続ける」 第六法。 それに挑み、到達し、世界を書き換える。 それがワラキアの望んだ未来を作る手段。 「なまじ先が見えたからしょった苦労か。俺には同情する気なんて微塵もないけど────ワラキアの夜っていう吸血鬼の発端には、何の悪意もなかったって信じてもいい」 ただワラキアの望んだその未来さえ、正しいのかは誰にも解らない。 なぜならそれは、計算しきれない未来なのだから。 「ま、何はともあれ」 志貴が歩を進める。 「ああ、これでようやく」 士郎が歩を進める。 互いに向かい合うように歩を進め、交錯するその瞬間。 「全部────」 「────終わったんだ」 掲げられた掌が弾けあい──── ────乾いた音を、打ち鳴らした。 後書きと解説 終局。 やはり最後のケリをつけるのはこの二人でしょう。 色々と無茶してますが、それはそれ、最後はやっぱり勢いが命ってことで。 後はまとめエピローグと各作品ごとのエピローグを書くか書くまいかってとこですか。 ようやくこの話も終わりです。 ここまで読んでくださった方、あと少しですのでもうちょっとだけお付き合い下さい。 back next |