剣の鎖 - Chain of Memories - 第四十一話









投影(トレース)開始(オン)

 瞳を閉じて内面へ。深く深く。自分の中へと潜り込み目的の物を探し出す。荒れ果てた野に突き刺さる剣群の森に迷い込み、目指した剣を検索する。
 干将莫耶。二刀一対の夫婦剣。アーチャーが弓兵でありながら好んで使う短刀の名。そしてあの男がこの剣に固執する理由こそ────

 がきん、と音を立てて頭の後ろで歯車が噛み合った。まるで撃鉄を落としたかのような衝撃を伴って、士郎の手の中にはイメージした剣が握られていた。

「貸してくれる?」

「いいけど。危ないから気をつけるんだぞ」

 ベッドの脇に用意されていた椅子に腰掛けていたイリヤスフィールが士郎より預かった剣をまじまじと見やっている。

 約丸一日の休息の結果、士郎の傷はかなり癒された。本来その程度で回復する筈もない致命傷に程近い傷であったのだが、結果として快復に向かっている以上は口を噤まざるを得ない。
 イリヤスフィールによる治療の効果も多少影響しているのだろうが、士郎自身の治癒能力が異常だ、とイリヤスフィールは結論付けていた。

 そして今、士郎はイリヤスフィールに己が魔術の出来を見て貰っていた。

「ふぅん……やっぱり、シロウの魔術はおかしいね」

 はい、と剣を返されて受け取る。全く以ってリアルな質感と重量を持つ二対の剣。魔術という常識外の知識で形作られた剣は、その異様さをまざまざと見せ付けていた。

「普通の投影なら数分持てばいい方だけど、シロウの剣は消える気配すらない。シロウの家には、もっとずっと前に創った物もあるんだよね?」

「ああ。強化の訓練の合間に創った物が幾つか。中身は空っぽなものばっかりで、この剣みたく出来たものはほとんどないんだけどな」

「それは単純にシロウの修行不足よ。後は相性みたいなものもあるかもしれないけど。シロウの本質は強化なんかじゃない。このおかしな投影魔術よ」

 だろうな、と士郎自身も思った。一度火の入った魔術回路の操作は容易く、強化で苦戦を強いられていた頃を思えば投影による剣の作成はとても楽に感じる。イリヤスフィールの言うように、単純に合っているのだろう。

「シロウがこれからも魔術を扱っていこうと思うのなら、この魔術を極めてみなさい。ただ誰かに知られるようなヘマはしないこと。でないと、捕まってホルマリン漬けにされちゃうよ」

「……でも、この戦いの間だけはそうも言っていられない。ようやく自分に出来る事を理解出来たんだ。ならこの力を使って、俺は俺の戦いを続ける」

 手にした剣を一際強く握り締める。未熟な自分が見つけた異端の力。これまで守られてばかりだったから、これからは誰かを守るのだと。

「はぁ、どうせ止めても無駄ね。シロウって見た目によらず頑固だし。ただし、無闇矢鱈に使っちゃダメよ。身の程を超えた魔術は術者へと跳ね返ってその身を滅ぼすんだから。そんなの、絶対に許さないんだからね」

「ああ、わかった。約束する。というか、もうしてるけどな。俺は死なないし、イリヤは死なせない」

 イリヤスフィールは一瞬、儚げに笑って椅子より降りた。

「じゃあわたしは少し用があるから。シロウはちゃんと寝てること。まだ全快じゃないんだから」

 幼子に言いつけるように言ってからイリヤスフィールは部屋を出た。静けさを取り戻した部屋の中で、士郎はベッドに倒れ込んだ。

「……ごめん、イリヤ。俺は本当はもう、解ってるんだ」

 身に宿る魔術の異端さを士郎は既に知っていた。アーチャーに斬り付けられたあの晩、剣と剣とが交わる度に、弾ける度に見せ付けられた。
 脳裏を埋め尽くす死の咆哮。血の河に彩られた大地の上に、無数の屍が山を為す。絶望しかないその場所で、あの男は言ったのだ。

 “────我が死後を預ける。その報酬を、ここに貰い受けたい”

 永遠に続く煉獄への片道切符。それを余りにも容易く、あの男は己の生と引き換えに買い取った。

 否が応にも見せ付けられる負の連鎖の中で、士郎は理解してしまっていた。いや、理解させられていた。アーチャーの憤怒の意味。怨嗟の意味。遠坂凛に剣を向けてまで、衛宮士郎を殺しにかかった絶望の意味を。

「ああ、このくそったれ。なら俺は、絶対に自分(おまえ)なんかに負けてやるものか」

 掃き捨てた言葉は、自分自身へと向けられていた。






開演の合図/Waltz I




/1


 士郎に与えた部屋を辞し、イリヤスフィールは廊下を思案顔で歩いていた。視線を硬質な床に落とし、顎に添えられた指先は肌理細やか。ただ表情に宿る影を消し去る事だけは出来そうになかった。

「やっぱり……」

 呟いて足を止めた。この冬木の聖杯戦争に起こっている異常性。それに気付いているのは暗躍している当事者達と、本物の聖杯たるイリヤスフィールしかいない。

 一昨日に続き、昨夜また一つサーヴァントの気配が消えて飲み込まれた。本来収まるべき筈のイリヤスフィールの杯には水は満ちず乾いたままで、誰とも知れない偽物の器に英霊の魂が注がれている。

 聖杯の成就はアインツベルンの悲願。最強のマスターに最強のサーヴァントを据えて、更にはマスター自身が聖杯であるという万全を期したこの戦にさえも、彼らの予見しなかった異常が蔓延っていた。

 七騎のうち既に二騎奪い取られた。杯を満たすには丁度七人分の魂が必要だが、動かすだけならば残りの数で足りないという事もない。
 が、それは彼らが目指したものではない。注ぐべき数は七。捧げるべき数は七。正しく儀式を終え、悲願を達成する為にはもう、手遅れかもしれない。いや……

「そうね。取られたと言うのなら、取り返せばいいだけの話」

 肩にかかる銀色の髪を払い、イリヤスフィールは悠然と歩き出した。
 冬木の地に杯は二ついらない。満たすべき器は唯一つ。その先が、決して自身の望んでいない結末であっても。彼女は逃げず臆さず、自らに課せられた宿命に身を投じようとしていた。





/2


 辺りを乱立する木々が覆う広場にぽつりと立つ洋館。主にさえ見捨てられた西洋建築の庭において、風を切る音が木霊していた。

「はっ──、ふぅ────!」

 轟音を伴って打ち出される渾身の拳。当たるべき目標は無く、倒すべき敵も無くただただ我武者羅にバゼットは空に向けて拳を振るっていた。

『……八人目のサーヴァント、ですって?』

『ああ。アーチャーのマスターの嬢ちゃんがそう言ってた。嘘じゃないだろうな。実際にセイバーのヤツ、ボロボロにされてたみてぇだし』

 有り得ない。事前のバゼットの情報収集において、前回の聖杯戦争に確たる勝者はいなかった。真相を知る当事者達が既に亡き人々である以上、確実な証拠になるものがないのもまた確か。

 そしてランサーが実際に感じ、得た情報を総合するのなら、有り得ないと断じる根拠はなくなってしまう。

 ……いや、いい。いるのならそれはそれで構わない。ただ倒すべき敵が一人増えただけの話だ。やるべき事に狂いは無く、事前に知れたのなら僥倖でさえあるだろう。

 なのに────

『それで。そのサーヴァントのマスターの目星はついているのですか?』

『は? んなもん考えるまでもねーよ。嬢ちゃんがドンパチやらかしてたのは教会だぜ。なら自ずと答えなんて出てるだろうに』

 邪念を振り払うかのように拳を突き出す。目の前に浮かんだ幻影を掻き消して、そんな当たり前の事に気付きたくないと未だに思っていた自分自身の弱さを貫きたかった。

『言峰綺礼。あのヤロウしかいねぇ』

「あぁ────っ!」

 飛び散る汗が飛沫となって舞い、高速すら生温いバゼットの拳によって飛散した。
 息を切らせ、最後の一撃を振り抜いた構えのまま停止したバゼットの鋭い瞳は遠くを見つめていた。ここではない何処かに想いを馳せるかのような、少女のような純真無垢の色を残して。

「は、は、は、はぁ。はぁ……ふ、ぅ……」

 呼吸を整えて額に浮かんだ汗を拭う。胸のうちに沸いた迷いは未だ掻き消せていない。いや、あの男と直接対峙するその時まで決して拭い去れないだろう。
 それが自分の弱さなのだとバゼットは受け入れた。迷いがないと言えば嘘になる。信じたい気持ちがないなんてきっと嘘だ。でも、それでも、私は────

「私の名はバゼット。バゼット・フラガ・マクレミッツだ。封印指定の執行者。余分な思考など不必要。
 目の前に“敵”が立つのなら……私の行く手を阻むのなら────」

 ────たとえそれが誰であろうとも、必ず、始末する。

 脆い心に蓋をして、鋼鉄の補強を施す。これまでそうして来たように。

『対象が動いたぜ。追うか?』

 バゼットの脳裏に声が響く。偵察に出ていたランサーからの連絡だ。なんとも丁度良い頃合だった。

「ええ。すぐそちらに向かいます。見失わないように」

 何時の間にか彼女の全身から汗が引いていた。凍れる瞳を怜悧に細め、手近に脱ぎ捨ててあった上着を羽織る。
 きっちりと身なりを整えてから、一直線にランサーの居場所目掛けて駆け出した。

 これから赴く戦地で、たとえあの男と対峙する事になったとしても、もう彼女は──迷わない。





/3


 彼は静かに目覚めた。今現在の自分の状態を素早く性格に把握し、そして何故こうして天井を眺めているのかも理解していた。

「おはよう。調子はどう?」

 だからその声にも全く驚く事無く冷静に対処した。

「ええ、悪くはありません。ただ少し、身体の動きが鈍いみたいだ」

 セイバーはベッドの上に寝かされており、凛は傍の椅子に腰掛け何かの本を読んでいたようだった。セイバーに傷の手当の跡は無い。サーヴァントには生身の人間に施すような治療は必要なかった。

 時間と魔力さえあれば自然と癒えていくものだ。その点、この遠坂という屋敷は都合の良い立地と言えた。冬木の霊地において、第二位に属する高等な霊脈の上に建てられたこの家は、サーヴァントの治癒能力を大幅に増幅してくれる。

 瀕死にも近い傷を負いながら、今のセイバーには外面上の傷は見当たらなかった。が……

「それは貴方の魔力量が減っているせいでしょうね。昨日の戦闘と治癒にほとんど持って行かれたんじゃない」

「ええ、恐らくは。吸い上げた端から治癒に回って、更には保有魔力まで消費する。自分の傷がどれほど酷かったのか理解できましたよ。今の残存魔力量も」

 ほとんど空に近い状態だった。

 元より保有量が少ないセイバーが、昨日のように数多の宝具を使用する戦い方をすればこの結果は目に見えていた。けれどそうせざるを得なかった。
 あの男……ギルガメッシュに対抗するには、こちらの持てる戦力を一つでも出し惜しみしていては生き永らえる事すら不可能だっただろう。

 ただそれでもセイバーが正しくマスターとの間にレイラインを開けていれば、こんな事態にはならなかった。供給に勝る需要のせいで、セイバーは己の望む量の魔力を得られず、こうして身動きの取り辛い状態にまで追い込まれた。

 セイバーはどうにかして身体を起こすと、凛に向けて柔和な笑みを向けた。

「すみません。どうやら僕は、負けたみたいです」

「気にすること無いわ。わたしも勝てなったから。ただ、事態は深刻ね。命があった事を良しとしても、これじゃあもう戦えるだけの力が無い」

 いや、方法はあるにはる。魔力が足りないのなら、補給すればいいだけの話だ。正規のラインから望むだけの魔力供給がなされないのなら、別の方法で補えば良い。マスターがサーヴァントに魔力を供給する方法は決して一つではないのだから。

「…………」

 しかしその方法こそが凛を悩ませるものだった。サーヴァントへの魔力供給の方法……一つは他者の魂を喰らうこと。もう一つは……

 凛はぶんぶんと頭を振った。有り得ない。そこまで義理立てする理由が無い。セイバーは凛の正規のサーヴァントではないのだ。
 もし凛の思い描く方法でセイバーに魔力供給を果たせたとしても、いつかは敵になる間柄だ。塩を送るには、些か彼女の個人的な事由が強すぎて首を素直に縦には振れそうになかった。

 ならば。

「衛宮くんと合流しましょう」

 凛は第三の選択肢を提示した。

「一応貴方と衛宮くんの間にパスは通っているのよね?」

「はい。微弱ですが今も流れてきています。本当に取るに足らない量ですが」

「ん。ならそのパスを強めるわ。開ききっていない道なら、無理矢理に抉じ開けて流れる魔力を多くさせる」

「……余り良い提案とは思えませんね。意識的にしろ無意識的にしろ、微量しか流れ込んでこないのにはきっと理由があります。
 お兄さんの保有魔力はそう多くありません。もし正しくパスを通せたとしても、今度はお兄さんの方が枯れてしまう可能性が高い」

 マスターとサーヴァントの魔力供給をたとえるのなら、川が一番近い。川上から川下へと流れてゆく魔力。川上……つまりマスターの保有する魔力が多ければ多いほど流れてゆく魔力は増えていく。

 仮にもし無理矢理川幅を広め、流れる魔力を増やしたところで、マスター側の保有魔力が少なければ流れは変わらないし、変わったとしても枯渇する危険性を孕むだろう。

 魔力の貯蔵がなくなることは等しく死を意味する。その定義はマスターもサーヴァントも変わらない。

「そこはもう賭けよ。どのみち貴方がその様じゃ彼に勝機はないし、わたしの身も危ないもの。多少のリスクは背負わないとリターンを望めないでしょう」

 ぴっと指を立てたまま話す凛はなお言葉を続けた。

「それよりも。貴方の方こそどうなの。衛宮くんのこと、見限ったんでしょ?」

 柳洞寺での一戦。セイバーは衛宮士郎の後を追う事無く、こうして凛の傍に身を寄せているその理由。

「見限ったって……酷いなぁ。ただ単に距離を置いただけですよ。本当に見限っていたのなら、あの晩、僕はお兄さんを殺しています」

「……じゃあなんでそんな真似したわけ。前ははぐらかされたけど、今度はそうは行かないわよ」

 じっと見つめる凛に対しセイバーはついっと視線を逸らす。染みや痛みの無い壁を数秒見つめて、溜め息を一つついて向き直した。

「端的に言えば、僕とあの人は相容れないからです」

「……どういう事? わたしの目から見た分で言えば、そんなに仲が悪いようには見えなかったけど」

「あの人の人となりは僕としても好ましく思っています。ただそういう上辺ではないもっと深い部分……根幹的なところで決定的に手を取り合えない。
 だから距離を置いたんです。そうでもしなければ……僕はあの人をこの手にかけていたかもしれないから」

 沈痛な面持ちでセイバーは語った。およそ嘘だとは思えないほどの重さを伴って。

 凛にはセイバーの言わんとすることの本質は読みきれなかった。ただ、理解できたものもあった。喩えるのなら水と油。そう簡単に交じり合う事の出来ない断絶があの夜、二人の間に生まれたのだ。

「ふーん。で、だから?」

 だというのに凛はまるで柳に風とばかりに聞き流し、問うた。

「アンタがアイツの何が気に食わないのかは知らないけど、だから何。知り合った人間の全てを認められるヤツなんか存在しないわ。もし居たとすれば余程徳の高い聖人君子くらいでしょうね。
 普通の人はそういうのと折り合いをつけて生きてるわ。気に入らない部分だってあるだろうけど、それ以上に良い部分を持ってる。だから友達になれる。そうでしょ?」

 まあ、マスターとサーヴァントの関係はまた違うかもしれないけどね、と捨て鉢に言って背凭れに身体を預けた。
 黙ったまま耳を傾けていたセイバーは小さく笑みを零し、口を開いた。

「そう簡単にいけば誰も苦労しません。貴女にもいるでしょう? どうしようと絶対に相容れない存在が」

「そりゃね。だけどこれまで折り合いつけて生きてきたわよ。まあそれも、昨日のアレで完全に吹っ切れちゃったけど」

「僕にとってのそれがあの晩の出来事だった。ただそれだけの事です。彼と僕は背中合わせだ。決して互いを認める事無く、己の信じた道を突き進む」

 だけど、と区切り、セイバーは続けた。

「なら、振り返ってみればいい。そうすれば、今まで見えなかったものが見えるかもしれない。たとえそれが、僕の信条に反した行為であっても」

 かつて、セイバーには同じ経験があった。全く自分とは似ても似つかない存在。人でも神でも有り得ない創造物。自身を絶対と断じた男が出会った、或る一人の男の生き様。自らと無二の絆を結んだ──儚くも尊い朋友との出会い。

「で、どうするの?」

「行きましょう。どの道僕らにはもう、選べる選択肢なんて残されてはいないですから」





/4


 彼の目の前には広大な森があった。見上げれば灰色の空。見渡しても枯れ落ちた樹木がそこかしにあるだけで、人の手の入った気配など微塵もなかった。

 彼……ギルガメッシュは赤い双眸で森を睨みつけていた。正確には森ではなく、その手前に張り巡らされた結界に、だったが。

 ふん、と鼻を一つ鳴らして彼は無造作にその結界を突き抜けた。何かしらの対抗手段を講ずる必要もない、と断じての行為だった。

 ギルガメッシュに続いて、彼の傍らにあった少女もまた結界を潜り抜けた。黒い甲冑。黒い剣。目元を覆い隠す黒い眼帯。黒一色に覆われた年端もいかぬ少女……教会の地下聖堂に安置されていた少女だった。

 ただその動きが以前までのそれとは違う。機械仕掛けの人形のようだった以前とは違い血の通った人間のそれと変わらない動作。張り詰めた空気を纏いながらも、彼女は操り人形などではなく確かに意思を持つ一人の戦士だった。

 昨夜のキャスターの消滅を機に、彼女は完全に覚醒した。差し迫る聖杯戦争の終局を知らず肌で感じ取ったのか、理由は不確かではあったが彼女は十年前……聖杯の泥にその身を呑まれながらも確固たる自我を確立していた。

 ただその判断基準、行動基準には以前の彼女とは差異があった。

「さあセイバー。この先に聖杯が待っている。奇跡が欲しいのなら、その手で掴み取って見せろ」

「貴様に言われるまでもない。私は必ず聖杯を手に入れる。必ず願いを叶えてみせる。在りし日の、我が祖国を救う為に……!」

 駆け出した少女の後姿を見やりながらギルガメッシュは歪に口元を歪める。
 ああ、それでいい。貴様はただ求め欲しその為だけに戦え。その果てが、救いのない絶望であっても。決して曲げない信念を胸に抱き、至宝へと手を伸ばすその瞬間こそ。感嘆が慟哭にとって変えられるその瞬間こそが。

 英雄王に愉悦を齎す、最高の喜劇となるのだから。

「さあ、残酷な劇(グラン・ギニョル)を始めよう。全く以って下らない、人形劇を……!」

 遠慮のない哄笑が、広大な森に木霊した。













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